白亜の殿堂ラッフルズは素敵だった。 ビュッフェが始まる3時半まで10分ほど余裕があったので、 瀟洒な噴水のある中庭を見学したりして時間を潰した。 建物を取り囲む回廊は、大理石のすべすべの床、白い欄干で、 いにしえの貴婦人のように優美だ。
	ハイティビュッフェにやってきたのはビリヤード・ルーム。
	ラッフルズのハイティといえば、ティフィンルームが有名だけれど、
	果物が豊富だというので、敢えてビリヤードルームの方に予約を入れてみた。
	けれども、廊下の窓ごしにティフィンルームを覗いたきりんが言った。
	「なんかこっちの方が楽しそう」
	なるほど、白亜の明るいティフィンルームの前には長蛇の列ができて賑わっている。
	なのに落ち着いた内装のビリヤードルームの方は我々以外だれも待っておらず、
	閑散としている。
	「ティフィンルームの方がよければ、予約をキャンセルしてそっちに変えましょうか?」
	とうさぎ。「もっとも今から行って入れるかどうかは知らないけれど」
	
結局のところ、予定通りビリヤード・ルームの方に行くことにした。 ダークブラウン系の内装の店内はなんとなく薄暗く、落ち着いた雰囲気だ。 ビュッフェにはプチケーキやカナッペ、それにマンゴスチンやダークチェリーが並んでいた。 それに点心。少しづつさまざまなものを皿にとってきたら、テーブルの上が華やかになった。
	マンゴスチンは、今朝スーパーで買って食べたのが生まれて初めて、今が二度目だ。
	今朝買ったのも美味しかったけれど、ここのは更に美味しかった。
	ずっと甘味が濃いのだ。
	この果物、果物の女王と呼ばれ、
	食べた人はみな一様に「すごく美味しい!」と誉めそやすけれど、
	その割にはどんな味なのか教えてくれない。
	せめて「○○に似ている」という言い方ででも説明してくれればいいのにと思っていたので、
	その説明を考えてみることにした。
	
	「マンゴスチンを人に説明するとしたら、何に似た味だって言う?」とみなに問うと、
	「熟したプラムみたいな味」とネネ。
	「モモみたい」ときりん。
	「オレンジだよ、オレンジ」とチャア。
	「そうねー、ブドウにも似てない?」とうさぎ。
	――これを聞いた人にはどんな味だかさっぱり分かるまい。
	
ケーキ・点心を一通り食べたあとは、 みな当然のようにダークチェリーとマンゴスチン三昧に突入した。 分厚い皮をタテに割り、中の白い身を取り出して食べ、取り出しては食べた。
	ところが。何個目かのマンゴスチンの皮を剥こうとしたら、
	腕にアリが何匹も這っているのに気がついた。
	「どこから来たんだろう?」と不思議に思っているうちに、
	どんどんアリの数は増えてきた。5匹、6匹‥11、12、13匹‥!
	「やだ、どこから来るんだろう?」と思い、
	何気なくマンゴスチンについた葉をめくってみたら――。
	
無数のアリが葉の裏を真っ黒に埋め尽くしていた!
ぎょっとして思わずうさぎは椅子をひいた。 そして給仕を呼び、マンゴスチンの皿を下げてもらった。
	しばらくすると、
	別のお客が「マンゴスチンにアリがいる」とスタッフに告げているのが目に入り、
	ビュッフェに並んだマンゴスチン皿は取り下げられた。
	そのまま今日はマンゴスチンはおしまいかと思いきや、
	スタッフが葉のついた皮の上半分を一つ一つ切り落とし、またビュッフェに並べた。
	えんじ色の皮が上半分だけ切り取られ、
	みかんのように小袋に分かれた中の白い実が顔を出している。
	もしかして、マンゴスチンというのはもともと横に割って食べるのが正解なのかもしれない。
	
	さて、みなさん、もしもラッフルズのビリヤードルームで
	上半分が切り取られたマンゴスチンを見かけたら――。
	その慣習は、このときこうして始まったのである。