2003年6月10日 アタマジラミを追え!! (前編)

一月ほど前のこと。 背高のっぽのきりんが、うさぎの頭を上から見下ろして言いました。
「ママ、頭になんか白いものがあるんだけど」って。

うさぎは髪を撫で付けながらいいました。
「あら失礼ね。白髪も髪の一部よ。抜いたりしないでねっ!」
「そうじゃなくて。フケみたいだよ」 そうきりんは言いつつ、うさぎの頭をパタパタ叩きました。 「うーん、取れないな」
「フケ? あらやだ、わたしはフケ症じゃないから、 ゆうべ髪を洗ったばかりでフケなんか出ないわよ。 きっと修正液かなんかじゃないのかしら」
「いや、そういう感じじゃなく‥」 きりんはふと手を止めました。 「あっ! これってもしかして"あれ"じゃないか? 前にもなった、ほら‥」

うさぎは固まりました。 「もしや、"あれ"とは、シ‥シラミのことっ?!」
「そう、それ。‥たぶん」と、神妙な顔で頷くきりん。
うさぎは、白いものがついている部分を見せてもらおうとしましたが、無理でした。 後頭部の地肌近くを自分で確認できるわけがありません。

うさぎはちょっと考えて、近くにいたチャアを捕まえると、その頭髪を掻き分けました。
「やーっ! ママ突然何するの!! 髪クチャクチャにするのやめて!」
「こら、じっとしていなさい。 ママの髪にシラミがいるなら、チャアの髪にも絶対いるはずよ――」

「!!」 うさぎは思わず飛びのきました。 チャアの髪の地肌近くに、無数の小さなティアドロップが、銀色に光っていたからです。 まさしくこれはシラミの卵に間違いありません。
――どうしてそんなことが分かるのかって?
それは、以前にもシラミアタマになったことがあるからです。

◆◆◆

今を去ること3年前。 春先に民間の屋内プールに遊びに行った数日後、 うさぎは頭を掻きむしる自分に気付きました。 もっとも肌が過敏ぎみのうさぎは、 民間プールに行ったあとの1、2週間は体中のかゆみに悩まされるのがいつものこと。 このときも頭のみならず体中が痒かったので特にどうとも思いませんでした。

けれども、ネネとチャアが頭が痒いと言い出すに到って、 「これはおかしい」と思い始めました。 体は痒くないのに、頭だけが痒いとは。しかも二人とも。 それで、子どもたちの頭髪を調べてみたのです。 そしたら、 二人の頭髪に、長さが1ミリもないくらいの小さな小さな涙型のものが こびりついているではありませんか!

そういえば。 うさぎはプールの更衣室でブラシを借りたのを思い出しました。
新しいブラシは殺菌消毒したケースに入っており、 使い終わったブラシはダストボックスに入れる仕組みになっているので 清潔なものと思い、安心して使ったのですが、 使い終わったブラシを元のケースに戻そうとするチャアを引きとめたそのとき、 なんだかいや〜な予感がしたものです。

もしや、他にもこういうことをしていた人がいるのではっ?!

と。
そして見事に予感的中!
シラミを貰ってきてしまったというわけです。

頭の痒みがシラミのせいだとすぐ分かったのは幸いでした。 たまたま一月ほど前、学校の保健室便りで読んだばかりだったので、 ピンと来たのです。

「アタマジラミの流行にご注意ください」

というその記事を最初に読んだときは、一笑に付したものです。
「まったく、"シラミ"だなんて。戦争直後じゃあるまいし」、ってね。 この衛生観念の行き届いた現代に、シラミの"流行"とはオーバーな、 わたしが子どもの頃だって、"シラミ"なんて言葉は死語同然だったのに。
念のため、子どもたちの髪を調べてはみましたが、 「ほら、やっぱりそんなものはありゃしないじゃないの」 うさぎはそう思って保健室便りを古紙回収に回す新聞の束の間につっこみました。

ところがそれから一月も経たないうちに、この騒ぎ。 本当にシラミ禍に襲われたのでした。
うさぎはすぐさま古新聞の束を引っ掻き回し、 保健室便りをようやく見つけると、よく読みました。 まだ古紙回収が回ってきていなかったのは幸いでしね。

さて、保健室便りを読み直すと。そこには、

  1. シラミというのは、小さな虫であること
  2. アタマジラミは頭髪に卵を産みつけ、頭皮から吸血すること
  3. 成虫は黒いので見つけにくいけれど、 卵は白っぽくて見つけやすいので、
    シラミが寄生しているかどうかは、卵の有無で判断するとよいこと
  4. 卵はフケと見分け難いが、フケと違い、髪にこびりついてとりにくいこと
  5. 昔のシラミよりもしぶとくなっていること
  6. 通常のシャンプーでは駆除が難しく、 市販のシラミ駆除薬を使うとよいこと
  7. 卵は、目の細かいクシで丁寧に髪を梳いて取ること

などが書かれていました。
成虫と卵の図も描かれており、体長2〜3ミリというその成虫の図はいかにも憎憎しげで ゾッとしました。

こんなのが自分の頭に住んでいるなんて‥!

でも幸い、手持ちのブラシやクシで梳いても、成虫の姿は目にしませんでした。 ただ、髪を掻き分けてみると、頭髪近くに、銀色の卵が点々と光っているのでした。

さっそくうさぎは、シラミ駆除薬を薬局に買いに走り、 処方箋にしたがって駆除を始めたのでした。

中編(明日)に続く