2003年6月14日 制服屋の二代目

横柄な一代目と人当たりの良い二代目のいる自転車屋さんで修理をお願いしている間、
「この雰囲気はとこかで経験したことがあるわ」と思い続けたうさぎでしたが、 引き上げる段になってようやく、「ああそうだ、制服屋だわ」と気付きました。

ネネの中学の制服を買った制服屋も、先の自転車屋さんと同じ感じなのです。
一代目のおやじさんは横柄で、「売ってやる」という態度が見え見え。 体操着のジャージを買いに行ったときなんて、
「品切れだよ、品切れ」と言ったっきり。
「次にいつ入りますか?」と尋ねると、
「さあね。そんなこと、わたしが知るわけないだろう。 業者が次にいつジャージをもってくるかなんて。 業者に直接電話して聞いとくれ。 まったく、こっちは儲けナシで業者と同じ価格で売ってるんだ。 手間をかけさせないでくれ」

それにひきかえ二代目の息子は、当たりが柔らかく、腰も低め。
「あ、お父さん、業者さんなら、来週の半ばには来るようなこと言ってましたよ。 お客さん、すみませんね、何度も足を運ばせて。 来週の後半にはたぶん入っていると思いますので、その頃またお越しください」

制服というのは必ず売れるものです。 ネネの学校の制服を扱っている店は、近くではこことあともう一軒だけ、 あとは遠くのデパートが一軒だけで、完全な寡占販売です。 紳士用のスーツが1万円で売られるこの時代に、公立中学の制服が、一式なんと4万円!
それでも値段にかかわらず、買わざるを得ません。

そういう状況下で長年店をやってきたおじさんが殿様商売なのも頷けます。
現に「売ってやる」「買わせていただく」という図式になっているんですもの。 意識が現状に即してくるのも、無理はありません。

そして、そういう図式が今も続いている中、 二代目が一代目の殿様商売体質を受け継いでいないことの方が奇跡といっていいかも。

だけどこの"奇跡"も、二代目の個人的なたぐい稀なる資質によって生まれたとは、 うさぎには思えません。 きっと、この二代目もどこかで気付いているからに違いないと思うのです。
「いつまでも、今のままではないぞ」と。

この世の中は変化しています。
若い頃、社会の端々に見られる不条理な慣例にウンザリし、 「この慣例はおそらく未来永劫、ずっと続いていくのだろうな」と早くも絶望していた きりんとうさぎは、 ここ10年、時代がうねりをあげて変わり行くのをつぶさに見てきました。
絶対潰れないといわれていた銀行が潰れ、絶対崩れないと思われていた年功序列が崩れ、 ガラガラと社会の枠組みが組替えられていく様は、 一方で恐怖でしたが、他方で爽快でもありました。

そういった社会の劇的な変化はたぶん、きりんとうさぎたちの世代の誰もが多かれ少なかれ、 気付いてきたことだと思います。 自転車屋さんや制服屋さんの二代目も含めて。
かつて自転車屋でしか買えなかった自転車がスーパーや量販店で買えるようになり、 その競争原理によって、ついにトップブランドの自転車までが安くなった―― そういった現象が、制服の世界にもいつおきないとも限りません。
「制服が高い〜!」とうさぎが文句を言ったら、きりんが
「コナカとかユニクロが制服産業に参入すればすぐ下がるのに」と言いましたが、 実際そういうことがいつ起きても、不思議ではありません。

しかし、商売がそういう波にさらされる前から、 すでに新しい環境に適応した人種が生まれるというのは、 今西進化論を裏付けるかのようですね。

自然淘汰による適者生存を謳うダーウィンの進化論に対して、 種全体が一斉に環境適応種へと変異すると説く今西進化論。
社会のあちこちで目にする新環境適応種"二代目"の存在は、頼もしい限りです。