昨日、英検の二次試験を受けに行きました。
会場は、街道に沿って駅から15分ほど歩いたところ。 バスの便もありましたが、うさぎはバス代をケチって歩き始めました。
ところが。駅から10分ほど歩いたところで、うさぎは忘れ物に気付きました。 上履きです。受験票に、試験時の必需品として、「上履き」とあったのを思い出したのです。
さあどうしましょう?!
駅から遠ざかるにつれ、お店は少なくなってきていました。
10分ほど歩いたこの辺には、スリッパを売っているお店などありそうにありません。
もしかして、駅近くには100円ショップがあったかも‥?
まだ時間には余裕があったので、うさぎは駅まで引き返すことにしました。
炎天下を歩いて10分、それを引き返して10分、計20分歩いて駅周辺に戻ると、 さすがに汗だくになっていました。 それでも100円ショップ、100円ショップ‥と探すうさぎ。 でも残念、100円ショップはありませんでした。 しかたなく、うさぎはコンビニに行きました。 「コンビニにスリッパなんて売ってたかしら‥?」 と思いつつ。
だけど、コンビニにはちゃんとスリッパが置いてありました。
でも高い! 580円もしていました。
う〜〜〜〜〜むむむむ‥。
うさぎは思わず唸りました。
家に帰れば、スリッパなんてあるのです。
それを忘れてきたがために、ここで消費税込み609円の出費?
それって、すごーく気がすすみません。
これを買わずに済ませる方法ってないかしら?
とうさぎは考えました。
はだしで校内を歩く?
――それはいくらなんでもちょっと嫌かも‥。
あ、これはどうかしら? ビーチサンダル。
これなら380円。200円安い。
‥でも、校内でビーチサンダル?
‥それもちょっと嫌かも〜?
あれこれ算段した挙句、結局うさぎは580円のスリッパを買いました。
さあ、これからまた15分歩いて、会場へ向わなくてはなりません。 うさぎは炎天下をまた歩き始めました。 今度こそバスに乗ろうかと思いましたが、やめました。 だってすでに609円も余分に出費してしまったんですもの、 バス代なんか払ってる場合?!
2度目に歩いたのは、さっきとは違う側の歩道でした。 同じ道でも、街道のこっち側とあっち側では、だいぶ景色が違って見えました。 さっきはお店がないと思っていたあたりにも、けっこうお店がありました。
で、駅から8分ほど歩いたあたりに、幸か不幸か、うさぎは見つけてしまったのです。
ファンシーショップの店頭に、280円のスリッパが山積みになっているのを‥。
ガーン‥。頭をなぐられたようなショックでしたね。
さっきもこっち側の歩道を歩いていれば‥。
そうすれば、炎天下を10分も戻らなくて済んだのです。
580円も出さずとも、280円でスリッパが買えたのです。
うさぎはその店の前でしばらくボーゼンとそのスリッパの山を見つめていましたが、 スリッパを一つ取ると、店に入り、レジに差し出しました。
「これください!!」
‥いわゆる、"ナンピン買い"というヤツですな。 値下がりした株を買い足して買いコストを下げるという、投資手法の一種です。
でも、なぜここでスリッパをナンピン買いしなくてはならないのかって――?
それは敢えて聞かないでいただきたい。
おおかた頭がおかしくなっていたのでしょう。
すでに炎天下を30分近くも歩いた後だったんですもの。
とにかく、うさぎはそれを包んでもらい、また会場へと歩き続けました。
しかし、会場につくと、また思いがけない展開が、うさぎを待ち受けていました。
なんと、スリッパなんて、必要なかったのです!
考えてみれば、この会場って、大学なんですもの。
上履きなんて、スリッパなんて、全然必要ない!
ひゅ〜るるるるる‥。
うさぎ、暑さとショックとで、もう卒倒寸前‥。
それでもけなげに試験はちゃんと受けました。
――で、この2足のスリッパはどうしたかって――?
帰りにそれぞれの店に事情を話し、返品させていただきました。
しかも、"お詫びになにか別のものでも‥"
と思ってファンシーショップの店内を物色していたら、
チャアが前から欲しがっていた工作セットが見つかって、一石二鳥!
大喜びでレジに運びました。
‥というわけで。
――終わりよければ全てよし
‥だったのかな〜?
◆◆◆
【 ブルネイ旅行記10 シュールな朝食 】
エンパイアでとる初めての朝食。
朝8時半近くにアトリウムカフェへ赴くと、
昨晩の夕食時に「エンパイアにどのくらい滞在なさるのですか」と話し掛けてきた
給仕さんが椅子を引いてくれた。
親切でフレンドリー、それでいて控え目で折り目正しくて、とても感じの良い給仕さん。
名前を尋ねると、彼は「アンディです」と胸の名札を示した。
と、 「そしてボクはデニス!」と、突然そこに別の給仕さんが現れた。 これには皆、驚くやら可笑しいやら。 うさぎは、「分かった。よく覚えておくわ」と言い、
"折り目正しいアンディ"
"ひょうきん者のデニス"
と、手元のメモ帳に書き込んだ。
アトリウムの吹き抜けに張り出すように作られたこの「アトリウム・カフェ」は、 数百席を擁する大きなレストランである。 ゆったりとしたスペースには、何十のテーブルが規則正しく並んでいる。
けれど、いまここにいるお客といえば、うさぎたちのほかには白人の老夫婦が二組だけ。 昨晩、ここで夕食を食べたときも、白人の老夫婦が一組と、 シンガポーリアンとおぼしき大家族が二組、それにうさぎたちだけだった。 その彼らも早々と引き上げてしまい、最後はうさぎたちだけになった。
アトリウムの高い天井、銀のカトラリーが光る無人のテーブル。 この異常なまでに広い空間の中、 フロアの真ん中に4人ポツンと座って取る食事は、なんだかままごとのようだった。 それどころか、一種のシュールさすら感じる。
フロアの隅まで規則正しく並んだ数十のテーブルには いずれも洗いたての真っ白なクロスがきちんとかけられ、 おびただしい数の銀のカトラリーが鈍い光を放っている。 まるで、ちょっと前までここに数百人のお客が座っていたみたい。 それが突然、神隠しか何かで消えうせたかのような、そんな雰囲気だ。
膝からナプキンが落ちようものなら、
アンディかデニスがどこからともなくフロアを滑るようにやってきて拾ってくれる。
カップの中のコーヒーや紅茶がなくなると、
いつの間にやら銀のポットを抱えた彼らが、側に立っていて、
「お代わりをお注ぎしましょうか」と尋ねる。
一介の庶民でしかないうさぎたちがそういうサービスを独占すること自体、シュールだ。
更にシュールだったのが、レストランだというのに、食べるものがあまりなかったこと。 ビュッフェの台には、料理を入れるフード付きのコンテイナーが並んでいたけれど、 どれもカラッポ。 "食べ尽くされてカラッポ"なのではなく、"もともとカラッポ"なのだ。 新品みたいなコンテイナーがきれいに洗われ、ぴかぴかに磨き上げられてそこに並んでいる。 これには、参った。
パンやフルーツ、ハム・チーズ、それにシリアル類といった常食系のものはあったので、
お腹がいっぱいにならなくて困るということはなかったけれど、
やっぱり何か温かい料理が食べたい。
――そう思い始めた頃、
卵係が鉄板の前についた。
「チャ〜ンス!」そう言って、チャアがすかさず目玉焼きを焼いてもらいに行った。
ところが、彼女が皿に乗せてもってかえってきたタマゴは、どうも妙ちきりん。
「ちょっと、それ一体何を頼んだの?」とうさぎが尋ねると、
チャアはケラケラと笑って言った。
「えーと、一応目玉焼きのはずなんだけど‥」
「目玉焼き〜〜〜?! それが?!」ネネが笑い転げた。
「何それ! あたしでももうちょっと上手く焼けると思うけど」
「だって、卵を割るのさえ失敗してダメにしているんだもん、あの人」とチャア。
「それが"エンパイア風目玉焼き"ってことはない?」と真面目くさってきりんが言う。
「いくらなんでも、それはありえないと思うけど‥」とうさぎ。
「コックがタマゴぐらいきれいに焼けなくてどうするよ!」とネネ。
「ちょっとあたしも見に行ってこようっと」
「あ、チャアも行く〜!」
そんなわけで、可哀想にタマゴ係は2人の子どもに監視されながら、
新しいタマゴを焼く羽目になった。
2人はテーブルに新しいタマゴをもってかえってくると言った。
「やっぱりあの人、どうみても見習いだよ」と。
ヘタクソなタマゴ係と、カラッポのビュッフェコンテイナーの謎は、翌日解けた。
その日、初日より40分ほど早く行くと、鉄板の前にはプロのタマゴ焼き係がいて、
居並ぶコンテイナーの中には、いずれもちゃんと中身が入っていたのだ。
大鍋の中には熱々のおかゆもたっぷり入っている。
それにかける青ネギやパリパリガーリックやおしょうゆもあった。
――要するに、初日は朝食を食べに行くのが遅すぎたのだ。 それで、ビュッフェのコンテイナーの中身は片付けられてしまい、 プロのコックさんも奥に引っ込んでしまったあとだったということらしい。
けれど、広いフロアにお客が数組しかいないというシュールさに関しては、 2日目も大して変わりはなかった。 折り目正しいアンディと、ひょうきん者のデニスのサービスを独占できるという点でも、 何ら変わりはなかったのであった。