今日はチャアと出かけました。 バレエの発表会に来てくれた友達の家に、ディズニーシーのお土産を届けにいったのです。 前はクラスメートだったけれど、今は他の学区に引っ越してしまったチャアのおともだち。 とはいえ、うちからせいぜい2〜3キロしか離れていないので自転車で出かけました。
チャアがジーンズを履いたので、うさぎもジーンズを履きました。 「ウェストがユルユルだ」とこぼすチャアに引き換え、 うさぎはおなか周りがパンパン。それがちょっと悲しい‥。
チャアがユニクロのタートルネックを着たので、 うさぎもおそろいのシャツを着ました。 チャアが紺色のパーカーを着たので、うさぎもネネから借りてお揃いのパーカーを着ました。 そして、二人とも、ディズニーシーで買って来たミッキーの耳あてを装着。 チャアはピンク、うさぎは豹柄の。
チャアとうさぎ、上から下までおそろいの服。 まるで仲のよい親子みたいです。 本当はここのところ、口げんかばっかりなんだけど。 だってチャアは、勉強はしないし、部屋は片付けないし。 4年生用の問題集がまだ終わらない。だからつい小言を言ってしまうのです。
パーカーの大きなポケットにデジカメを入れて、外に出ると、 三色スミレが風にゆれていました。 早速ポケットからデジカメを出し、しゃがみこんで一枚撮りました。 そのあとチャアも一枚撮りました。 どうして小さな花をそんな遠くから撮るかな、とうさぎは思ったけれど放っておきました。
「今度は別のアングルから」そのあとうさぎはもう一枚撮りました。 チャアはうさぎの背後に立ってそれを見ていました。
「念のため、もう一枚」うさぎが言うと、
「まだ撮るの? 早く行こうよ」とうさぎの後ろにいたチャアは退きました。
その途端、液晶画面の中のパンジーの色が変わりました。
「ちょっと待った! もう一度ママの後ろに来て」とうさぎはチャアに言いました。 チャアが後ろに来ると、赤紫色のパンジーは陰になって、青紫になりました。 うさぎは、日なたの赤紫色のパンジーと、日陰になった青紫色のパンジーとを それぞれ一枚づつ撮りました。
「さあ、もういいでしょ。行くよ」というチャアに
「そこを動かないで。今度はフラッシュをたかずに撮ってみるから」
「おお、これもいいわね」 液晶画面で撮れた画像を確認し、うさぎはニンマリしました。
今日はいいお天気でした。 風は冷たいけれど、日差しは暖か。 並木道には黄色い銀杏の葉っぱが散らばっています。 すっかり晩秋の景色です。 ここのところ忙しくて、 自転車を走らせている間も、辺りの景色を見る余裕がなかったんだなあと気付きました。
‥と。
いいもの見っけ♪
道の向こう側に、青い空に突き出したトキワサンザシの赤い実を見つけました。 うさぎは赤い実に吸い寄せられるように道を斜めに横切りました。
そこに前から車が‥。
うさぎはヒヤッとして後ろを振り返りました。 するとやっぱり。 チャアが後ろからついてきていました。 ああ、うさぎはどうしてチャアの前で道を横切ったりしたのでしょう。 チャアがもし車に轢かれでもしたら‥。 そう思ってゾッとしました。
無事に車をやり過ごしたチャアにうさぎは言いました。
「無鉄砲なママを見習ってはダメよ」
と。チャアはうさぎに似ているから心配です。 面白いものを見つけたら、よく考えないうちに足が走り出す。 自発的に勉強をしないのも、部屋を片付けないのも、 うさぎの子供の頃とそっくりです。
赤いトキワサンザシの実。 うさぎは青い空をバックに、高い枝を目指して撮りました。 チャアは、低い枝に一等赤いところを見つけて撮りました。
チャアの友達が住むマンションはもうすぐそこでした。
「いけない! 住所を書いた紙を忘れてきちゃった!」とチャア。
「ああ、それなら大丈夫。一応、ママ部屋番号覚えてるから」とうさぎ。
ところが大丈夫じゃなかった。 なんとこのマンション、棟が10ほどもあったのです! つまり、同じ部屋番号の部屋が10軒あるわけで‥。 まさかそんなこととはつゆ知らず、 マンション名と部屋番号しか覚えてこなかった。
「お友達のおうち、どの棟かなんて‥知らない‥よねえ?」
恐る恐るチャアに尋ねると、
「いや、たしか住所に"F"か何かが含まれていたような‥」とチャア。
よかった〜!
人に尋ねてF棟を探し当てると、郵便受けにちゃんと友達の苗字が書かれていました。
用を済ませて、「さあ、あとは帰るだけだ〜」とうさぎが言うと、
「もう帰っちゃうの〜? もっと用はないわけ?」とチャアは物足りない様子。
「あ、そういえばあるのよ、あるの! 郵便局に寄りたいの。
‥でもここからだとすごく遠回りになるよ」とうさぎ。
「そんなの全然構わない」とチャアは答えました。
そこで、今帰りかけた道を少し引き返し、郵便局へ行くことにしました。
ついでにくだもの屋さんに寄って1ネット100円のミカンを買ってきましょう。
いつものくだもの屋さんは、いつものように1ネット100円でミカンを売っていました。 ただ一つ、いつもと違っていたのは‥。
いつもはSサイズが12個入っているのに、
今日はLサイズが10個入っていたこと!
「あらっ! 100円ミカン、今日はLサイズなのね〜!」
うさぎがちょっと大きな声を出すと、となりにいたおじいさんが、
「えっ、これ100円なのかい! そりゃ買わなくっちゃ!」
と言って2ネット3ネットと腕に抱え込みました。
それを聞きつけた道行く人がみな足を止め、 うさぎが4ネット抱えてレジに運ぶ頃には、100円ミカンは人だかり状態になり、 狭い歩道は引き返すこともできないありさまとなっていました。 うさぎ、くだもの屋さんにいいことしたかも〜?
郵便局の2、3軒前は花屋さんでした。 店頭の駐車場に鉢植えがたくさん並んでいます。 うさぎは自転車を止め、デジカメを取り出しました。 チャアも自転車から降りました。
シャッターを切ると、日陰でもないのに、自動的にフラッシュがたけました。 うさぎは空を見上げました。 晩秋の日は短い。 そろそろ花を撮るには光が足りなくなってきたようです。 うさぎはフラッシュをオフにしてもう一度シャッターを切りました。
郵便局につくと、うさぎはふるさとゆうパックのウメボシを一つ、 きりんの父宛てに申し込みました。 お誕生日祝いのプレゼントです。 どーんと1.6キロ。それにしたって5000円。えらく贅沢なウメボシです。 ウメボシの好きなチャアがそれを見ながら羨ましそうにしていたので、 スーパーで我が家用にも500グラム498円のウメボシを買いました。
さて、我が家は山のてっぺん。これから坂を登らなくては。
坂の序盤でネを上げ自転車を降りたうさぎとは打って変わり、
籠に40個のミカンを入れたチャアはまだまだ元気。
「先に帰っていいからね」とうさぎが言うと、
うさぎを追い抜いて坂を登っていきました。
‥さて、うさぎはのんびりと行きましょうかね。 自転車を押していたら、道の傍らに、ススキ、いや違うな、なにかの草?を見つけました。 またまたデジカメをポケットから取り出し、自転車を止めて構えるうさぎ。
シャッターをきって液晶で出来栄えを見ると、 黒バックに草がくっきりはっきり写っていました。
これは違う!
とうさぎは思いました。 そういうんじゃないんだなァ、うさぎの目が受け取るイメージは‥。
しょうがないからまたフラッシュをオフにして撮りました。 シャッターが落ちるまでの僅かな時間に草は風にそよいでぶれてしまう。 何度か狙ってやっとブレずに撮れました。
更に坂を登っていくと、生垣がありました。 紅葉した葉がそろそろ散りかけた生垣です。 その背後に柿の木。 逆光モードにして空をバックに実をつけた枝を見上げると、 空がやけに青く液晶に映っていました。 目を液晶からずらし、本物の空を見上げると、空はそこまで青くはありませんでした。
更に坂道に自転車を転がして歩きながら、うさぎは考えました。 このデジカメは、ろくに青くない空をも青く写してしまうのだろうか‥?
そうだ、モードを変えてみたらどうだろう?
どういうことが起きるかしらん?
夕日を背にした木立の前を通りかかると、うさぎは早速、デジカメを取り出しました。 そして、通常撮影、トワイライトモード、夕焼けモードと、 木立に向けて3回続けてシャッターを切りました。 坂を登る数分の間に、 さっきまでうっすらと青かった空は、更に色を失っていました。
ハハ‥、やっぱり〜! 見事に"夕焼け"、"夕暮れ"が演出できているではないですか! 本当は、今日は夕焼けなんか出ていない、白っぽい空なのに〜!
これはいいものを手に入れたなっ♪
とうさぎは愉快な気分になりました。 同時に、
悪魔に魂を売り渡してどうする!
という呵責も。複雑な心境でまた家へと歩きました。
家に帰り着くと、
チャアはさっそく買ってきたミカンのネットを開いて食べていました。
「ママ遅かったねえ、もうチャア三つも食べちゃった」
「三つも! あのねえ、今日のはLサイズなんだから、いつもの調子で食べたら顔が黄色くなっちゃうわよっ!」
そう言いつつ、パソコンを立ち上げ、早速デジカメの画像を取り込んでいると、
チャアが脇から言いました。
「ねえ、そのブドウみたいな実は何?」
「ブドウ?? これのこと? たぶんセンリョウだと思うけど」(注:実際はマンリョウ)
「ふうん、いいなあー!
そんなブドウみたいなのが見られるんだったら、
チャアもママと一緒に帰ってくればよかった」
うっふっふ‥、そうかいそうかい、
ならば、また一緒にデジカメもって出かけようね。