ミスドでもらったガラスのコップ。
かつて夏になると、タンブラーを一揃い買うのが年中行事でした。
うさぎはソコツ者。 よく食器を割ります。 特にコップ類は本当によく割れる。 落として割るのもあるけれど、 底のほうをよく洗おうとしてコップに手をぎゅっと突っ込んだときにパリン‥ってことも多い。 夏の初めに五こセットで買ったはずのコップが、同じ夏の終わりには一つか二つになっているのが常でした。
そこでいつしか、ガラスのコップは買わなくなりました。 いくら買ってもどうせ割ってしまうんですもの。 麦茶はマグカップで飲めばいい。丈夫で洗いやすいマグカップで。 カルピスだってジュースだって、マグカップで飲めないことはない。 そんなわけでここしばらくガラスのコップは買わなくなっていたのです。
でもねー夏の暑い時期、ガラスのコップで飲む麦茶って美味しいのよね。 マグカップでだって飲めないことはないけれど、やっぱりガラスだと涼しげで、 麦茶を飲む嬉しさが違う。 それで毎年初夏になると、やっぱり今年は買おうかと悩むのでした。
‥で、昨年も悩んでいたんだわ。 初夏にシェラトンのバイキングでケーキほおばりながら、 久しぶりに会った友達に 「今年こそガラスのコップが欲しいの」って打ち明けたものでした。 ところが 「コップなんてどこにでも売っているでしょうが」と友達は呆れ顔。 だからうさぎは言ったの。 「失礼しちゃうわね。ガラスのコップなら何だっていいわけじゃないのよ。 わたしにはこだわりがあるんですからね。 まず丈夫で簡単には割れないこと。 それに、手を突っ込んで洗える大きさがあることよ」
そしたら友達はこともなげに言ったの。 「あらそう、それなら簡単よ。 うさぎちゃんに必要なのはデュラレックスね。 これなら強化ガラスでできてるからすごく丈夫。 それに口が広がっているから、手を突っ込んで洗えるわよ」
自分が何年も悩んできた問題に、友達が一瞬でケリをつけたのが悔しくて、うさぎは慌てて付け加えました。
「ちょっと待った。丈夫で手を突っ込めれば何でもいいわけじゃないのよ。
オシャレでなくちゃダメなんだから!」
これにも彼女はこともなげに答えました。
「‥まあ、オシャレと思うかどうかは好みにもよるわね。
でも一応フランス製よ。これでどう?」
‥くっ、"おフランス"に弱いところまでお見通しとは。
旧友ってこれだから‥。
うさぎはその
デュラレックス
とやらがどんなものか分からなかったので、
帰りにデパートに寄って教えてもらいました。
「ほら、これよ。見たことあるでしょ」
ウン確かに。
よくレストランなんかで見たことあるわ。こういうグラス‥。
確かにそのグラスは「丈夫で、手を突っ込んで洗える」という二点をクリアしていました。 形もレトロっぽくて悪くない。 でもうさぎはその日、それを買って帰りませんでした。 だってなんか悔しいじゃない? 繰り返すようだけど、わたしはこの問題に何年も悩んできたのよ。 なのに友達が一瞬で見つけてくれちゃったその答えに、 はいそうですか、ってそう素直に従えるもんですか!
でもねー、確かにそれは「ベストアンサー」でした。 それで素直に「やっぱりデュラレックスかなあ」と思い始めたところに、 娘が似たような雰囲気のコップを二つ、持って帰ってきたの。 ミスドのスクラッチくじで当たったんだそうです。 それで買わずに済んじゃった。
それはとても良いコップでした。 久々にガラスのコップで飲む麦茶は本当に美味しかった。 それにとっても丈夫でした。その上、とっても洗いやすい♪ もう、言うことナシ! 気に入ったので、ヤフオクで同じものを見つけ、 4つ買い足しました。
夏はこのコップが大活躍! 甘いもの好きな娘は毎日このコップでゼリーを作りました。 すりきり300ccも入る大きさが便利で、そば猪口代わりに使ったりもしました。 6つあっても毎日フル回転。 全部出払っちゃって 肝心の麦茶を飲む分がないこともありました。
そうして夏の終わりに気づいてみれば、コップは6つ、一つも割れずに揃ったままでした!
秋になって麦茶を飲まなくなった頃、 一つも割らずに夏を越せたことに感謝しつつ、コップを棚にしまいました。 夏の間はキッチンカウンターの上にずっと出しっぱなしにしてあったんですけどね、 これからは暖かい飲み物の季節。 マグカップの出番です。
それっきり、しばらくこのコップのことは忘れていました。 ところが年末、ミスドの前を通りかかり、店の前に出ていた大きな福袋を覗き込んだときのこと。 てっきりドーナツがぎっしり詰まっているかと思ったそこに、うちのと同じコップを二つ発見! 思わずゲットしました。 福袋を買う習慣なんてないのに。 しかもこれから出かけるところだっていうのに、荷物増やしてどうするの〜?!
冬のさなか、数ヶ月ぶりに見るガラスのコップは新鮮でした。 これで熱い緑茶が飲みたいと思いました。 実はこれまでマグカップで緑茶を飲んでいたのです。 緑茶の緑が映えるような、そしてお茶がたっぷり飲めるような大きめの湯のみをちょうど探していたところ。 ふとこれで飲んだらさぞ美味しかろうと思ったのです。
でも、ガラスのコップに熱い緑茶を注ぐ――それは、冒険でした。 もしこれがデュラレックスなら心配することはないのです。 耐熱温度100度以上というのが謳い文句ですから。 でもこれはデュラレックスではないのです。 見た目は少々似てるけど、ドーナツ屋の景品なのです。 耐熱性があるとは、どこにも書いてない。
子供の頃、ガラスのコップに熱湯を注いで割ったことがあります。 琉球ガラスのビアマグを頂いたことがあって、 「これでホットカルピスを飲んだらさぞ美味しかろう」と思い、 カルピスの上からやかんの湯を注いだのです。 その瞬間、「ミシッ」という音がして、お湯が外に滲み出てきました。 すごいショックでした。
そんな経験もあったからなおのこと、お気に入りのグラスに熱い緑茶を注ぐのは勇気が要りました。 でもどうしても、このコップでお茶が飲みたい。 だから一つ割る覚悟でやってみました。 そしたら、割れませんでした!
ブラボー!! 割れなかったんです!
そんなわけで最近、このコップで緑茶を飲んでいます。 お茶の緑がとってもきれい。 それにね、なぜこのコップでお茶が飲みたかったか、なぜマグカップじゃダメで、 湯のみが欲しかったのかが分かりました。 マグカップって取っ手がついているでしょう? お茶を飲むときは、あの取っ手が邪魔なんです。 寒いときに暖かいお茶を飲むとき、わたしは両手でカップを包み込んで飲みたいの。 だから取っ手がないほうがいいんです。
秋口に棚に収めたガラスのコップはそんなわけで、また最近キッチンカウンターの上に出しっぱなしと相成りました。 冬にガラスなんて寒々しいと思っていたのに、緑茶を飲むツールとして定着したら、 なにやら温かいイメージが‥。 せっかくだから、他の用途にも使ってしまおうということで、 ぜんざいを盛ってみたり、吸い物を入れてみたり。 熱いのが平気となると、一気に用途が広がるんですね。 シースルーというガラスの特性を冬の最中に楽しんでいます。
先だっては茶碗蒸しも作りました。 これはとっても便利! なぜって中の様子が分かるから。 仕上がり具合が見えるので、蒸しすぎてしまう心配がありません。 シースルー、耐熱性という二つの特性が重なると、思わぬ利便性が生まれるものですね。
今まで買ったグラスは数知れず。 ガラスの脆さに何度も涙した末、やっと永く付き合えるグラスに出会いました。
初稿:2007年1月20日