デュプロの街。
子供のころ、レゴやプラレールが大好きでした。
わたしの両親は、一風変わった考え方の持ち主で、 わたしや妹にお人形・おままごとといった、女の子女の子したおもちゃを与えることを嫌い、 男女の区別なく遊べるブロック系のおもちゃばかり買ってくれました。 リカちゃん人形はどんなにねだってもダメだったのに(その代わり、祖母が買ってくれましたけど^^)、 男の子のおもちゃと見做されていたブロック類なら、 ちょっとねだっただけで簡単に買ってもらえたのです。 そんなわけで、うちは女の子二人姉妹なのに、レゴやプラレールがどっさりありました。
でもね、ブロックを与えても、所詮女の子は女の子。 プラレールをつなげた鉄道の脇にレゴで作った家を並べて大きな町を作り、 レゴの小さなパーツをお人形に見立て、 結局わたしや妹は、そこでお人形遊びをしていたのです。 わたしたちの興味はあくまで家や街であり、 男の子のように電車や車に興味を抱くことは、ついぞありませんでした。
こうして何不自由ないおもちゃ環境で育ったわたしですが、 いつも「こうだったらいいのにな」と感じていたことが一つありました。 それは、レゴで作った電車をプラレールで走らせることができたら、ということでした。 当時うちにはオレンジ色の中央線や、 白のボディに青い線の入った超特急ひかり号など、何種類もの電車がありましたが、 そのラインナップはいつも同じ。 しかもレゴで作ったお人形は、プラットホームでいくら電車を待っていても乗り込めないときてる。 それがつまらなかったのです。
でも、レゴで作った電車をプラレールで走らせるなんてのは どだい無理な話でした。 プラレールを作っているのは日本のトミーだし、 レゴはデンマークのレゴ社の製品で、全く別のおもちゃなのですから。 互換性などあるはずがないのです。 そこでわたしは、レゴの線路パーツを、これまた親にねだって買ってもらいました。 でも当時レゴの鉄道のパーツは非常に限られていて、 分岐もなければ高架もないただの環状線しか作れませんでした。 そんなところで自分で作った列車を走らせても、もうひとつ面白くありませんでした。 わたしは線路が高架や分岐によって複雑にいりくんでいるところが、殊のほか好きだったからです。
ですから大人になって子供が生まれ、レゴの弟分であるデュプロが発売されて、 そこに分岐や高架といった線路パーツが揃っていることを知ったとき、 わたしは、今こそ子供の頃の恨みを晴らすときだと思いました。 デュプロの線路は高い。プラレールに比べ、やたら高い。 腹が立つほど、高い。 最もシンプルな環状線を作るだけで、何千円もかかります。 でも駅で待つ人形を列車に乗せるためにはいたしかたない。 その代わりプラレールやbrio(ブリオ)の木製線路には一切手を出さず、 何年かかってもいいからひたすらデュプロで揃えることに決めました。
幸いデュプロを揃えることには、婚家の両親が非常に協力的でした。 頼みもしないうちから、 まだ生まれて2ヶ月にしかならない娘に 左の写真のようなセットを買ってくれたのが最初のデュプロ、 そのあと1歳の誕生日に基本的なセットを買ってくれたのが二つ目、 2歳の誕生日もデュプロで、こんどはお人形の入ったセットを買ってくれましたっけ。 娘の成長にあわせ、その時期その時期に適切なセットを買い与えてくれました。 余談ですが、義母とわたしはモノの選び方がよく似ていて、 わりと用心深くて冒険を好まず、 評価の定まった定番メーカーの定番品を選びがちなこと、 好きなものはとことん信奉するところなど、笑っちゃうくらいそっくりです。 その義母がデュプロ贔屓なのだから、こんなに心強い味方はありませんでした。
けれども、線路パーツを揃えるのには苦労しました。 なぜってあまり数が出ないものだけに、通常小売店には出回らないセットやパーツも多く、 そういうものは輸入玩具の店で直輸入品を探したり、 輸入元に直接問い合わせて限定品の通信販売を利用するほかはなかったからです。
いえ、苦労したのは線路パーツに限ったことではありませんでした。 たとえば右のお人形ですが、左から二番目の一体を除く3体は、 長女が2歳のとき夫の両親が買ってくれたセットに入っていたものです。 娘は右端の女の子を自分、その隣の男の子を「パパ」に見立て、左端の女の子を「ママ」に見立てて 遊んでいました。
ところが1年後、彼女に妹が生まれることになったとき、
困ってしまったんですね。
どんなに説明しても、彼女には妹の存在がイメージできない。
いや、妹の存在がイメージできないというよりは、
4人家族というものがイメージできなかったのだと思います。
「もうすぐ赤ちゃんが生まれるんだよ」というと、
「赤ちゃんが生まれると、誰が代わりにいなくなるの?」と
いう反応が返ってくるのです。
「どうして誰かがいなくならなくちゃならないの?」と尋ねると、
「だってそれじゃあ4人になっちゃうじゃん!」
「4人になっちゃうといけないの?」というと、
「えっ? 4人になってもいいの?」
「4人だって5人だっていいんだよ。
だってエミちゃんちはパパとママとお姉ちゃんのエミちゃんと弟のマサキくんと、4人いるじゃないの。
うちだって4人家族になれるんだよ」というと、
「えっ、マサキくんちってパパいるの?」
「いるよー。いつも会社行っててネネは会った事はないかもしれないけど、いるんだよ」
「ふうん、そうかー。じゃあ4人になっちゃってもいいんだね」と一見納得したかのように見えるのですが、
翌日になるとまた「誰がいなくなるの?」という同じ会話がはじめから繰り返されるのです。
そこで思いついたのが、妹の分の人形を買うことです。 すでにその頃、生まれるのは女の子だと分かっていましたから。 ところが運悪く、この人形シリーズはちょうど廃盤になってしまい、 どこを探しても見つからない。 おもちゃ屋さんを手当たり次第あたっても見つからず、 そうこうするうちに妹も生まれてしまい、 諦めかけたところにデパートの遊び場で見つけ、 実費がかかっても構わないから、どうか譲ってはくれませんかと レジの店員さんに頼み込んで譲ってもらったのが、左から二番目の髪の茶色い人形なのです。
たかが人形。されど人形。 ある日突然、妹の代わりにパパかママか自分かの誰かが消えていなくなっているのではないかという バクゼンとした恐怖が娘の中からすっかり消え去ったのは、この人形のおかげもあるのではないかと わたしは思っています。
また、右の汽車にも苦労させられました。 最初にこのセットを見たのは、ドイツのおもちゃ屋さんでもらったカタログです。 その写真を最初に見たときの衝撃と言ったら! 小さなセットですが、可愛らしいおとぎの汽車と、娘が幼い頃に一度友達の家で見たきりの ピエロと小ゾウが入っているところ、全てが気に入り、ドキドキしました。 ドイツでは現物は見つからなかったので、日本で直輸入品を探しましたが、やはりなかったので、 数年して日本で発売されることになったときには小躍りしたものです。
ところが待ちに待った発売予定時期を過ぎてもどこにも見つからず、 発売から2ヶ月ほど過ぎたところで諦めてレゴジャパンに問い合わせましたが、 すでに在庫がないとのこと。 本当に発売されたのか、或いは発売が停止になったのかもしれない幻の商品でした。
その後海外に出かけるたびに、おもちゃ屋さんを探したけれど見つからず、 結局手に入れたのはつい2年前、ヤフーオークションでのことでした。 初めて見た日から7年が経過しており、 その頃にはもう娘たちは大きくなっていて、デュプロで遊ばなくなっていましたが、 わたし自身が欲しくて落札しました。 わたしは子供が遊ばなくったって、一人でだって遊ぶくらい、 今もデュプロの線路が大好きなのです。 実は前の家にリフォームをかけて間仕切りをなくし、3DKを2LDKにしたのも、 夫を説得するため別の理由をいろいろつけましたが、 本当は一番の理由は、デュプロの線路を広げるとき、部屋の間の敷居が邪魔だから(笑)。 線路で遊ぶたびにこれさえなければ‥と思う目の上のコブでした。
そういえば、実は海外旅行に行く動機の一つは、 現地のおもちゃ屋さんで日本未発売のデュプロを探すためだったりもして‥^^;。 国によって発売されるセットが異なり、海外へ行くと、 日本では見られないセットが置いてあることがあるのです。 カタログも日本のとは違い、見たことのない商品が載っていてワクワクします。
左のセットはシンガポールのトイザらスで買ったもの。 たぶん、日本では一度も発売されたことのないセットです。 デュプロはほんとに小憎らしいくらい高く、それはどこの国で買っても変わりませんが、 海外でこうしたほんの小さなセットを見つけたときは、日ごろサイフの紐が固いわたしも即断即決! 絶対逃しません^^。
けれどもここ数年、これも一種のグローバル化なのか、 発売される商品のラインナップがどこの国も大差なくなってきたように思います。 要するに日本で手に入らないセットがなくなってきたということ。 これを喜ぶべきか、つまらないと思うか、微妙なところです。
ことほど左様にデュプロの入手場所はさまざまで、 それぞれに語りつくせぬドラマがありますが、特に動物の親子には思い入れがあります。 シンガポールで馬のセットを迷わず買ったのも、すでにうちには茶色い仔馬がいたから。 ゾウはフリーマーケットの10円均一の箱から親ゾウが拾われてきたところに 仔ゾウの入った先のサーカス汽車セットがやってきて、親子がそろいました。
線路に話を戻しましょう。 うちにある線路は高架が1組、分岐が4つに交差が一つ、あとは曲線もしくは直線の普通の線路で、 それほど多くはないのですが、 それでもこれだけあるとかなりいろんな組み方が楽しめます (黒いのとグレーのがあるのは、途中でマイナーチェンジがあったため)。
うちの(というよりわたしの)遊び方は、 一度組んだら飽きるまで1週間くらいはそのまま出しっぱなしにしておき、 毎日ちょっとづつ組みかえて遊ぶ、というものです。 子供が学校へ行っている間に組み替えておき、子供が帰ってきたら汽車を走らせてもらうのです。 改心の作が出来たときなど、子供が学校から帰ってくるのが待ち遠しくてたまりません♪♪
ところで線路繋ぎに関しては、子供の頃からプラレールで鍛えた年季がありましたから それなりに自信があったのですが、一度、そのプライドが見事に覆されたことがありました。
男の子が二人いる家に娘を連れて遊びに行ったときのこと。 プラレールが山ほどあったので、懐かしくて繋ぎ始めたら、 突然横から「それじゃあダメよっ!」と言われてビックリ! その家のお母さんが 「それじゃあ一巡したら汽車がずっと同じところを回り続けてしまうでしょ。 ちょっと貸して」と言うと、わたしが組んだレールを黙々と組み替え始めたのです!
普段おとなしい人だっただけに、そのこだわりにはもうびっくり。 さすが男の子を二人も育てていると、線路繋ぎにも一家言あるのねえ〜と感心するやら可笑しいやら。 「スイッチバックするんじゃダメなわけ〜?」と思わないでもありませんでしたが、 そのこだわりに敬意を表し、おとなしく彼女の組み方を見ていました。 すべてを組み替え、「さあこれでよし」と言ったときの彼女の満足げな表情は今でも忘れられませんw。
‥で、それ以来わたしも、一度入ったら最後、スイッチバックしない限り、 ほかの場所に行かれなくなる「どんずまりループ」を見過ごしに出来なくなりました。 「それじゃあダメよっ!」という声がなんだかまた飛んでくるような気がして、 組み替えられずにはいられない体質になってしまった^^;。
たとえば、下の写真は、左側はどんずまりループが二箇所もあるもの、 それを"正しく"組み換えたのが、右側の写真です。 一見そっくりですが、どんずまりループが解消されているのが分かりますか?
シルバニアを処分したとき、もしかしてデュプロも処分できるのではないか、と考えたことがあります。 でも自問自答の答えは「絶対にNO!」でした。 こればっかりは手放せない。 これは写真じゃダメなんです。 線路を実際に自分の手で組めないから。
もう娘たちはそれほど一緒に遊んではくれませんが、そのうち孫が遊んでくれるかもしれないし。 何年経ってもあまり古びた感じにならない美しいデュプロはわたしの一生の宝物です。
初稿:2007年2月25日