眠っているうちにケアンズに着いたのは、まだ未明、 日本時間で3時半、現地時間で4時半のことだった。
ケアンズの空港は国際便と国内便のターミナルが完全に分かれていて、
入国手続きはここでしなければならない。
入国するということは税関・検疫も通らなければならないわけで、
成田で預けた手荷物も一旦ピックアップした。
オーストラリアの検疫は厳しい。
オセアニア独特の生態系を守る為に、やたらと持ち込み禁止品や申告対象が多い上、
申告漏れには高額の罰金が課せられると聞いている。
ヘタをすれば罰金では済まず、身柄拘束の刑に処せられることもあるらしい。
それでうさぎたちも、今回はコンドミニアム滞在があるにもかかわらず、 日本からの食品持ち込みを一切やめ、 「皮のサイフ」だの「貝のネックレス」なんてもののために、 入国カードの「申告物有り」の項にチェック印を入れておいた。
ところが。
実際に入国審査を通り抜け、バゲージクレイムから荷物を引き上げてみれば、
なんのことはない、到って普通のフロアが広がっていた。
ルートが単純に"Declare"(申告物有り) と"No declare" (申告物なし) に分かれており、
申告物ありの方は審査場へと通じているが、
「申告物なし」の方はただドアから外に出るだけ。
セキュリティチェック並のモノモノしい税関・検疫ゲートを想像していたうさぎは、
なーんだ、と拍子抜け。
これならわざわざ申告カードにチェックを入れる必要はなかったかも‥と、
きりんと顔を見合わせて後悔した。
だって、チェックを入れなければ、すぐそこにあるドアから外に出られるんでしょ?
眠い目をこすっている子供たちを連れて、わざわざ検疫審査場に赴くこともなかったなあ。
でもまさかここで入国カードを取り出し、おもむろにチェックを消すわけにもいかない。
次々とすました顔をして「申告物なし」のドアから出て行く同胞たちを横目で睨みつつ、
うさぎたちはしぶしぶ検疫室へと進んだ。
うさぎたちのほかにはこんな部屋にやってくる日本人なんかいやしない。
あーあ、正直者はバカを見る?!
検疫室で「申告したいものは何か」と聞かれ、皮のサイフと貝のネックレスを見せると、
プラチナブロンドのにこやかな女性審査官は、全く問題ナシ、というように首を振った。
「食品は持っているか」と尋ねられたので、
ケチくさくも機内から持ち出したパンやら何やらを取り出すと、バターが押収された。
乳製品だったからなのかしらん?
でもこれ、メイドインオーストラリアなんですけど‥。
たかが小さなバター一つのことで、
なんだかひどくソンをした気分になったきりんとうさぎは、
「次にオーストラリアに来るときは、申告はやめよう」と後で言い合った。
しかし。
のちにうさぎはウェブサイトでオーストラリアの検疫に関するこんな話を読んで凍りついた。
「申告物なし」のドアからそ知らぬ顔で出ようとしたら、係員に後ろから声をかけられ、
荷物を調べられた結果、持ち込み禁止品の所持がばれ、
うそつき呼ばわりされて説教された挙句、
高額の罰金を支払ってようやく解放してもらった――
「やっぱり人間、正直が何より」とうさぎが思い直したのは言うまでもない。