うさぎがビーチを散策している間、他の3人はジャグジーに浸かっていた。 日本と季節が逆のこの国はいま冬。 ここは常夏の島とはいえ、プールに入るにはちと寒すぎる。 少なくとも6箇所はあるこのリゾート内のプールはどこも閑散としており、 唯一大盛況なのは、直径3メートルほどの丸いホットジャグジーなのであった。
このジャグジーは10分くらいに一度、ほんの数秒泡が止まることがある。
それを不思議に思っていたら、チャアがこっそり教えてくれた。
「近くの岩に付いているボタンを押すと泡が出るんだよ」って。
泡が止まると誰かがすかさずボタンを押すので、すぐまた泡風呂になっていたのだ。
今日は、一人のおじさんがボタンを押し続けていたらしい。
さて、このおじさんがジャグジーを引き上げてしばらくすると、 泡を出す機械の作動音が止み、辺りは急にシンと静まり返った。 時折誰かが水を掻くかすかな音だけを残して。
ジャグジーで遊んでいた7〜8人の子供たちは、ふと騒ぐのをやめ、神妙な顔つきになった。 どうやらチャアの他には、誰もこの仕掛けに気づいていないようだ。 ネネも、大きな男の子たちも。 皆なぜ泡が止まったのだろうかと訝かり、宙を見つめている。静まり返ったジャグジーに
バボー(泡は?)
という小さな女の子の物足りなそうな呟きが響いた。
唯一この仕掛けに気づいているチャアはちょっと得意そう。 目をキラキラさせ、それでいてすました顔をしている。
「あたしは泡がない方が好き」
しばらくすると、ネネがそう言って、再び遊び始めた。
泳いだり、水中でんぐり返しをしたり。
チャアがそれに同調。二人の様子に促されるように、他の子供たちも遊びはじめた。
「なぜだか知らないが、どうやら泡はもう出ないようだ」と納得したらしい。
静かなプールエリアに子供たちの歓声だけが響いた。
しばらく泡なしで遊んでいると、寒くなってきたので部屋に帰ることにした。
ジャグジーを出る時、チャアとうさぎはネネにこのからくりの秘密を教え、
わざと他の皆に見えるようにボタンを押させた。