やっと10時近くなって、スキーへ出発。
時差ぼけのせいか皆の足並みが揃わず、一人が起きると一人が寝てしまうといった具合で、
すっかり朝が遅くなってしまったのだ。
今日はさわやかな晴れ。晴天率がいまいちのこのウィスラーで貴重な晴天だ。 「明日はたぶん雨か雪」と言っていたヒゲのおじさんの天気予報がはずれてせっかく晴れたというのに、 朝からこの体たらく。冬場、高緯度のここは昼が短い。3時をまわると早くも日が暮れ始める感じである。 だから早起きが肝心なのだが。
ウィスラー山のゲレンデまでは歩いて5〜6分程度のはずだが、スキー靴を履いたロボットみたいな歩き方だと、
その倍以上かかった。
ゲレンデに到着した頃には、足が棒、もうヘトヘト。
スキー板とストックだけは初日に限り、店で預かってくれたので、ここまで手ブラで来れたのだが、
それでもすべる前からこの疲れようだ。
店で受け取った板を慣れぬ手つきで担ぎ、ヨタヨタフラフラと小広いゲレンデを横切ってゴンドラ乗り場へ。
ああ、子供たちの分まで持つと、スキー板ってなんて重いの‥。
もう少しシーズンが進んで、ここにも雪が積もれば、 ゴンドラ乗り場まで板を履いて滑っていかれるのかもしれないけれど。
ゴンドラは座席がなく、立ち乗りであった。コッド一つにつき10人乗りくらい。
中途半端な今の時間は利用者があまりいないので、コッドを一つ貸切り。うさぎたちは、
窓の桟のわずかなでっぱりにお尻を引っかけ、中央を向いて乗った。
うさぎは後ろの窓にもたれて進行方向を向いた。
きりんは前の窓にもたれ、子供たちもきりんの隣りに陣取ったが、
「進行方向を向いた方が酔わないよ」とうさぎが言うと、ネネも
「そうする。なんかこれって酔いそう」と言って、うさぎの隣に来た。
ゴンドラは急斜面をぎゅんぎゅん登っていく。すごい急勾配だ。
すっかり地面が見えていたビレッジからほんの数十メートル登っただけで、辺りは銀世界に変わった。
だが、うさぎにはその銀世界を眺める余裕がない。いくらも登らないうちに、気分が悪くなってきたのだ。
密閉されているからだろうか。リフトだと割と酔わないんだけど‥。
最初のうち、「わー、雪で真っ白ー!」などと騒いでいたネネも、だんだん元気がなくなってきた。
雪景色のビデオ撮影に余念がなかったきりんまでが、妙に無口になっていく。
元気なのはチャアだけだ。
うさぎは目を閉じ、とにかく早く山頂駅へ着いて‥、と心の中で念じた。 ゴンドラから真下の地面までの高さはかなりある。こういう状況も、高所恐怖症のうさぎには大変宜しくない。
もし落ちたら助からないだろうな。リフトならまだしも、密閉されているし――。
何年か前、ここでこのゴンドラのケーブルが切れて大惨事が起きたって、何かに書いてあったな。
――いやいや、そういう事故があったからこそ、きっと今のケーブルは大丈夫だろう――。
うー、早く山頂駅に着かないかな――、
あーいや、早くなくていいから、とにかく無事に山頂駅に着いて――、
あっでも、やっぱりなるべく早く着いて‥。
‥と、突然。辺りが静かになった。
それまで絶えず聞こえていたギュワンギュワンというゴンドラの登る機械音がしない。
不思議に思って目を開けると、ゴンドラは止まっていた。
一つ前のコッドがブラブラ揺れているのが見える。うさぎたちのコッドも右に左にゆらーりゆらーり‥。
ぐいぐい登っている時にはさほど感じなかった横揺れが、こうして止まっていると、ことさらに感じられる。
余計に気分が悪くなってくる。
もーっ!! どこの国にもいるんだな、リフトとかゴンドラを止めるヤツがーっ!!
気分の悪さを怒りに変えようと試みるが、人間、そう器用ではないらしい。 やっぱり気分の悪さは相変わらずなのであった。
たっぷり一分間ゴンドラは止まり、やっと動きだした‥と思ったらまた停止。
誰だーっ、ゴンドラを止めるヤツは?!
もし日本人だったら許さないぞーっ!!
カナダまでゴンドラ止めに来るなよなあっ!!
うう、虚しい憤り‥。
先が見えない、という状態は良くない。
いつまたゴンドラが止まるかしれない、一体いつ山頂駅に到着するのだろう、
そういう不安が気分の悪さを増してゆく‥。
それでも、ゴンドラはついに山頂駅に到着した。 やっとのことでうさぎたちはゴンドラから這い出ると、ベンチに倒れこんだ。 うさぎが乗り物に酔うのは珍しくもなんともないが、きりんもネネもひどく酔ってしまったらしい。 チャアもいまいち元気がない。周りの人は、平気な顔をしてゴンドラから降りていく。 どうしてわが家だけがこんなに乗り物に弱いんだろう‥って、まあきっと車に乗りつけないせいだろうけど。