そろそろトイレに行きたい――となると、コースの長さが分からない以上、とにかく先を急ぐのが賢明だ。
降雪機の作る人工の雪が降りしきる中、ネネとうさぎはスティープな斜面を滑り降りた。
これまで道幅いっぱいに使ってのほほんと滑ってきたネネだが、やるときゃ、やる!!
シャーベット状になった斜面を、なんと直滑降で、ずざざざざ〜〜〜〜っと滑り降りる。
「板をハの字にしている以上、そーゆーのを直滑降とは言わないよ」とは、のちのちのきりんの弁だが、
とにかく斜めとか横じゃなくて、下に向かって滑っている!!
「ネネちゃーん、ちょっと待ってよー!!
ママ怖いー!! ここ雪がジャリジャリじゃないの、
あんたどーして下向いて滑れるのよ〜?」
と荒い息をしながら、うさぎ。
「えー?
どっちかの足に体重をかけて滑ると、あんがい怖くないよ。
ママもやってごらん」
と涼しい顔をして、ネネ。
‥言われた通りにやってみたけど、やっぱり怖い‥。
とにかく、まっすぐ滑り降りるネネを、うねうねのボーゲンで必死に追いかけ、 アッという間にオリンピック・ステーションに到着。 ウィスラー・キッズ(スキースクール)でトイレを借りて、事なきを得た。
トイレに行ってすっきりするとひと心地つき、チャアときりんのことが心配になってきた。 滑ってる時間より座り込んでいる時間の方が長いあの状態じゃあ、一体ここに到着するのはいつのことか。 今はまだ2時過ぎだが、3時半までにこの中間駅に到着できなければ、 ゴンドラの営業が終了して村に帰れなくなってしまう。
だが、うさぎの心配は杞憂におわり、ネネとうさぎに遅れること40分程、 3時前にはチャアが遠くの方から滑ってきた。 きりんの足の間に挟まってもおらず、立派にあのジョリジョリ斜面を一人で滑ってくるではないか!
すごい! すごい!! すごい!!!
ジョリジョリ斜面をスキーで滑れるという以前に、一度失った勇気を再び奮い立たせ、 恐怖感を克服してもう一度滑ってみようという気になったチャアと、チャアをその気にさせたきりんに感動した。
うさぎはむかし蔵王でアイスバーンに出くわし、恐怖感でどうにも滑れなくて、
さっきのチャアみたいに座り込んで泣き出してしまったことがあるのを思い出した。
あの時は結局どうしたんだっけ? やっぱりきりんの励ましで、なんとか降りられたんだった――。
チャアを抱いて滑り降りるスキーの技術はないかもしれないけれど、
きりんにはきりんなりのやり方があるんだね。