夜、きりんとうさぎは子どもたちを部屋に残して街に出た。
夜のウィスラービレッジは、昼間とはまた違った趣きがあった。
闇の黒をバックにくっきりと浮きたつ色とりどりの電飾。
連なるホテルの1階にはテナントが並び、明るいショーウィンドゥの中で商品がきらめいている。
この小さな街の中にはレストランやスキー用品店の他に、婦人服のブティックやみやげ物屋、本屋、不動産屋、
金物屋、それにキャンディショップやクリスマス用品専門の店なんてのもある。更に、
なんとパピー(子犬)ショップまであるというから仰天してしまう。
街の広さから言えばここは確かに「ビレッジ(村)」かもしれないが、 その狭い範囲の賑やかさは大きな街の中心街にもひけをとらない。 夜の8時を過ぎた今もなお店々は煌々と灯りをつけ、お客を待ち受けている。 昼間はみなスキーへと出払ってしまうので、街が本領を発揮するのはむしろ夜であるらしい。 街の規模といい、居並ぶ店々の楽しげな様子といい、昼間はひっそりとして、夜になると活気づくあたりといい、 ちょっとディズニーランドのワールドバザールみたい。
スーパーの前にフリーペーパーが置いてあったのを貰ってみた。 かなり期待してレストランやスーパーの割引券を探したが、残念、ついていない。 どうやらこれは不動産広告が主体のようだ。
けれどこれはこれでおもしろかった。不動産広告というのは、本当に面白い。街の舞台裏がかいま見られるから。
別荘は、1000万円くらいのものから何億もするものまであり、安いからみすぼらしいかというと、そうでもなかった。 1000万でこんなのが買えるなんて安いなあ、と思うものもあれば、5000万でこの程度?と思うものもあり、千差万別。
思うに、価格は、建物の外観や敷地の広さ以上に、立地に拠るところが大きいのではないだろうか。
また、ビレッジ内のコンドミニアムは700万円くらいからあって、これまた値幅が広い。
同じデルタ・ビレッジ・スイーツでも700万から1500万までと様々。
けれどまあいずれにせよ、
ツインルーム一つで2000万円〜3000万円もするオン・ザ・ゲレンデの高級ホテルに比べると、
我らがビレッジスイーツはお手頃価格だ。自分の泊まっているホテルの価格が安いと何だか悔しい。
「新しくてきれいで、とってもいいホテルよー」と宣伝したくなったりして。
尤も、ウィスラー・ビレッジ内のホテルはどこも新しくてきれいで、ぼろっちいホテルは見当たらない。
だから、どこのホテルがひときわ素敵、ということもない。みんな揃って素敵なホテルばかりなのだ。
しかも村全体がどことなくノスタルジックな雰囲気で統一されているので、
その相乗効果で一棟一棟もより素敵に見える。
となると、不動産価格を決定するのはやはりゲレンデへの距離が全て、ということになろうか。
フリーペーパーの最後のページは「ウィスキー・ジャック・リゾート」という会社の一面広告だった。 つくづく読んで見ると、どうやらこの会社、今年オープンしたばかりのウェスティン・リゾートホテルや、 タウンプラザなど、ビレッジ内に17もホテルを持っているらしい。 この小さな村で17というのはすごい。 ウィスラービレッジがなぜかように統一感のある街並みに仕上がっているのか、 その謎がこれで解けたような気がした。 それはきっと、このように中核となるディベロッパーが存在するからなのだ。