Essay  うさぎの旅ヒント

【 部屋のあかり 】

うさぎは明るい部屋が好きである。 家中どこででも本や新聞を読みたいし、食物の彩りを楽しみながら食事をしたい。 部屋の隅々までが明るくないと、なんだか行動が制限されているような気がするのだ。 それで、わが家には6畳間には8畳用、8畳間には10畳用の照明が取り付けてある。

ところが、ホテルの部屋というのは総じて暗い。 天井を見上げると、ダウンライトが付いていればまだいいほうで、 大きな照明器具などは毛頭ない。 のっぺりとした天井を見るだに、「なんでここに電気をつけないかなあ」と不思議に思うが、 部屋全体を照らす直接照明を嫌い、 スタンドなどの間接照明でスポット的に照らすのが西洋の流儀らしい。

友人のアメリカ人が住む洋館を訪ねたときにも、 ディナーの時間になるとわざわざ部屋の明かりを消したので、 「なぜ部屋を暗くするの?」と尋ねた。 すると、友人夫妻が答える前に、中学生の長女がその質問に答えた。 「だって、そのほうが気持ちが落ち着くっていうか‥」
うさぎが内心、「部屋が暗かったらイライラして、気持ちが落ち着くどころじゃあないよ」 と思ったのは言うまでもない。 大正時代にドイツ人が建てたというその瀟洒な洋館は、 外国かぶれのうさぎにとって憧れ以外の何物でもなかったが、 「もしこの家に住めたとしても、ゼッタイ照明だけはもっと明るいものに付け替えるぞ!」 とも思った。

日本人であるうさぎと西洋人の、この照明に対する感覚の違いは一体何なのだろう、 とずっと思っていたが、 ある時、ツアーの添乗員さんに面白い話を聞いた。彼女曰く、
「西洋の人たちってね、飛行機の席の上についてるスポットライトでさえ眩しがるんですよ。 あの青い目は強い光に耐えられないんでしょうかねえ」

そうか、照明に対する感覚の違いは、単なる文化やスタイルの違いではないのかもしれない。 体の違いに源を発したもっと根本的なものなのかもしれない。 そして、 「西洋人の目は強い光に耐えられない」と言うとなにやら悲劇的な感じがするけれど、 もしかしたら彼らにとっては弱い光でも充分なのかもしれない。 同じ被写体にレンズを向けても、 レンズやフィルムの感度によって捕らえられる光の量が違うように、 人間の目が捕らえる光の量も、人によって、人種によって異なるのかもしれない。

‥と考えると、なんか急におもしろくなくなってきた。それじゃ、何かい? 日本人の中でも特に明るい照明を好むうさぎは、目の感度が低いってこと? 10本2000円で安売りされてるASA100みたいなもん? それってちょっとショックかも‥。

2001年12月8日 うさぎ

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