Essay  うさぎの旅ヒント

【 My Sweet Home 】

母と一緒にグアムへ行ったときのこと。
旅行の数日前に電話したら、母は大掃除の最中だった。 旅行前に一通り家の中を片付けておきたいのだそうだ。

旅行前の掃除にはいつもより念を入れるのは、うさぎも同じだ。
当日の出発ギリギリまで、洗濯物を片付けたり、 散らかしっぱなしになっているものを棚に収めたりする。
また、幾人か友達に尋ねてみたところ、どうやら母やうさぎだけではないらしい。 けっこう「自分もそうだ」と言う人が多かった。

ところが。その理由がうさぎとは違っているのに驚いた。

「旅行中にもし事故にでも遭ったりして、
散らかりっぱなしの家を残して死ぬのは恥かしいから」

と、母を含めた皆は言うのである。

うさぎの場合、掃除をしてから旅行に出かけるのは、

「旅行から帰ってきて家に帰り着いたとき、
散らかっている家を見て自分ががっかりしないため」

だ。素敵なホテルに泊って我が家に帰ってきても、そのギャップにがっかりしたくない。 だから精一杯きれいな我が家にしておきたくて、掃除をするのだ。

自分が死んだときのこと? そんなの考えたこともなかった。
これを機会に考えてみたが、 ホトケさんになってまでわが身の体たらくを恥じる自分の姿は想像できない。

翻って、「自分をがっかりさせくない」という思いは、かなり切実である。
長年憧れを募らせていた素敵なホテルから帰ってきて、 我が家の玄関の扉を開けるときにはいつもドキドキする。
みすぼらしい家が待っていたらどんなにがっかりするかと思うと、 ルーバーに手をかけるのが怖い。

だけど、掃除の甲斐あってか、幸いにして今までのところ、がっかりせずに済んできた。
久しぶりの我が家は、初めて入居したときと同じ、ちょっとよそよそしい匂いで出迎え、 うさぎはなんだか全てが新鮮で珍しく、きょろきょろしながら廊下に足を踏み入れる。 そして、リビングの扉を開けると、そこには案外悪くない部屋が待っているのだ。
必ず我が家よりも広い部屋に泊ることにしているので、 帰り着いたときには必然的に狭い我が家が待っているはずなのだけれど、 案外広いと感じられる。

うさぎの家は決して広くもなければ豪華でもない、ごくごくごく普通の集合住宅だけれど、 十数年かけて少しづつ少しづつ自分好みに近づけてきた内装は、 どんなにお金がかかっていようとも所詮は他人のセンスで設えられたホテルの部屋に そう簡単に負けたりはしない。
家具を全て隅に寄せて確保した何にも置いてない床は、 豪華な家具で埋め尽くされたホテルの部屋より、むしろ解放感がある。

とはいっても、旅先から持ち帰った4人分の荷物を広げると、 狭い家はたちまち足の踏み場もなくなってしまう。 だから、これをまたせっせと片付けて、「がっかりしない我が家」を取り戻す。

旅にある日々は楽し
あに旅になき日々もまた楽しからずや

2002年12月21日 うさぎ

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