Essay  うさぎの旅ヒント

【 中学生を連れて旅行に行くぞ! 】

10月の初め、きりんがサイパン行きの格安ツアーを探し出してきたときのこと。 12月の学期末に行こうと盛り上がっている3人を尻目に、ネネがこう言い放ちました。

「行きたくない。留守番してちゃダメ?」

「どうして行きたくないの?」と尋ねると、
「日焼けしたくないから。それに、学期末には今年も友達のうちでパーティをやるし」。

のっけからネネに「行きたくない」と言われて、 サイパン行きの計画は萎んでしまいました。
〔あ〜あ、なんて偏屈なヤツ! 普通の子なら大喜びするだろうに‥〕 最初はそう思いましたが、どうもそうではないみたい。 中学生にもなると「親との旅行なんて行きたくない」と思うのも普通のことのようです。 ネネが特別変わっているわけではないらしい。

「よーし、それなら、思わず"行きたい"とネネが言うような旅行を計画してみせるぞ!」

うさぎの胸にはこのような決意が芽生え、中学生を持つ仲間と共に 「中学生を連れて旅行に行くぞ!」という会を結成しました。

ところが、これはそう容易なことではありませんでした。 なにしろ、我が家で「旅行」といえば、それはすなわち「南の島でプール三昧」のことで、 それに匹敵するような別の楽しみ方が思いつかない。唯一脈がありそうなのが、

「フィンランド オーロラとスキーの旅 サンタクロース村観光付き」

というプランでしたが、年内にいかれないとすると、年明け。 年明けのフィンランドの寒さといったら月の平均気温を見るだに恐ろしく、 しかもツアー代金がべらぼう! 二の足を踏まざるをえませんでした。

それで並行して考えたのが、

「英国 ハリーポッターを巡る旅」

これも結構いけるかな、と思ったのですが、
「キングズ・クロス駅の9と4分の3番線から特急に乗れるなら行ってみたい」とネネ、
「それに、グリンゴッツでトロッコに乗れるんならね」と横から口を挟むチャア。
「テーマパークじゃあるまいし、そんなことできるわけないじゃない!」と言うと、
「建物を見てまわるだけだったら、普通の観光と何が違うわけ?」と二人が口を揃え、 この案は敢えなく却下となりました。

他に考えたものといえば、

「中国 万里の長城で中国4000年の歴史に触れる旅」
「ラスベガス テーマホテルはしごの旅」
「アラスカ オーロラ炬燵にくるまってオーロラを見る旅」等々‥

しかしながら、どれも却下。
「それのどこが面白いの? 飛行機に長時間乗っていく価値がある?」 と言われて、反論ができませんでした。
行き先自体、テーマ自体に魅力がないわけではないのです。 自分なりのコンセプトがこのテーマの中に見出せれば、どれも素晴らしい旅になるでしょう。 けれど、今のうさぎは、ただツアーのパンフレットの見出しを抜き出してきただけ。 これらのテーマの中にインスピレーションを感じてもいなければ、 止むに止まれぬ憧れを抱いてもいない。 だから「それのどこが面白いの?」と尋ねられると、すぐに答えに窮してしまったのです。

あーあ。
ネネを説得する以前に、自分自身が楽しんでいない。
考えすぎて、何が楽しいのかも分からなくなってきちゃった。
わたしってホントは、そんなに旅好きじゃないのかも‥。
――そんな気がしてきました。

ところが、そう思い始めて間もなく、事態は思わぬ急展開を迎えました。
以前から密かに気になっていた国、ブルネイダルサラームへ行くことを思いついたのです。 題して

「ブルネイ ハリラヤの祭りで人々の暮らしを垣間見る旅」

回教国であるこの国には、"ハリラヤ"という祭りの時期があり、その時期には、 もともとオープンマインドな国民性がますますフレンドリーになるのだそうです。
そういう時期を狙って行き、この国の人々と触れ合うこと――それが旅のコンセプトです。

しかしながら、このプランには欠点がたくさんありました。
ツアーがほとんど出ていないので、初めての個人旅行になること。
時期がおしているので、エアチケットやホテルが取れるかどうか分からないこと。

第一、ハリラヤ祭りに時期をあわせるとすると、学校を5日も休まなくてはならない。
しかも、大切な行事と行事の合い間を縫っての旅です。
これではとてもネネの同意は得られそうにありません。

時期は最悪、しかも実現できるかどうか分からない旅――。
これはハンディが大きすぎます。
でも、皆に話す前から、うさぎはこのプランに夢中になってしまいました。
旅の何が楽しいって、 行った先の国の人々と言葉を交わすことほど楽しいことがあるでしょうか。
「もし皆が行かないと言ったら、自分だけでも行きたい」とまで思いました。

ところが。ダメもとでネネに打診してみると、
「そういう旅なら行きたい」と言うではありませんか!
いや、ここで喜んではいけない。
思春期の娘の言葉を額面どおりに受け取るのは危険すぎます。
満面の笑みをついうっかり顔に浮かべてしまったあとで、 遅ればせながら平静を取り繕い、
「あら、どういう風の吹き回し? やっぱり留守番はイヤなのかしら?」と尋ねると、
「ウウン、これはマジで面白そうだと思った」とネネ。

その時の嬉しさといったら、ありません。
「自分だけでも行くぞ」と思いつつも、やはり自分が見たいものは、娘にも見せたい。
自分が経験したいことは、娘にも経験させたいのです。
家族と一緒なら、同じ経験であっても、どんなに余分に楽しいことでしょう。

――そんなわけで、明日から我が家はブルネイダルサラームに旅立ちます。
中学生連れで、どんな旅になりますことやら。
それでは行ってきます!

2002年12月7日 うさぎ

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