プールサイドの夕方5時。ちょうどこの場所この時間は、ビンゴゲームの時間でもあった。
参加者は1ドルでビンゴ用のボードを借り、集めたお金は、勝者の手に渡る仕組みである。 うさぎはネネとチャアに一枚づつ、ボードを借り与えた。
フィジアンのオバサンがこのゲームを仕切っており、ボールの入った籠を回すオバサンを、
子供たちが取り囲んでいる。このリゾートには日本人客も大勢いるのだが、なぜだか今は白人ばかり。
うさぎたちが唯一の日本人だ。オバサンはうさぎたちが日本人なのに気づくと、
「ユー、ジャパン! カム! (そこの日本人、こっちへおいで!) 」と言った。
ネネとチャアがオバサンの近くに移動すると、他の子供たちが二人に注目した。
絵に描いたような悪ガキ3人組も近くにおり、その子たちと目が合うと、ネネたちはビビッてしまった。
その様子を見て、オバサンが笑った。
「この子たちは、あんたたちを取って食いやしないよ。助けてくれることはあってもね」。
けれど、何を言われても、ネネたちには分からないのであった。全てが英語なのだから。
さて、一度目のビンゴは、並いる子供たちに先駆け、唯一の大人が制した。
彼らが賞金を受け取り、ビンゴはこれで終わりかと思いきや、まだ集めたお金は残っているらしく、
すぐに第二ラウンドが始まった。
「さあ、今度は全部の数字が開いたらビンゴと言うんだよ。チョンボは罰ゲームだからね!」とオバサン。
うさぎは確かにそれを聞いていたのだが、きりんが、ネネのが一列揃ったと喜ぶと、
一瞬にしてそれを忘れてしまい、ネネが「ビンゴ!」と言うのを阻止しそこねてしまった。
さあ大変! オバサンはニタリと笑い、ウキウキしながら、
「おやおや、こりゃチョンボだよ。さっき言ったろ、全部開いたらビンゴだって。
さて、歌を一曲歌って貰おうかね。日本の歌をね」と言った。
うさぎがそれを通訳してやったが、ネネは、
「ええーっ?!」と言って突っ立ったままだった。
「ほら、何でもいいから早く歌いなさい」と言うと、
「何を歌ったらいいか分からない」とネネ。さっき悪ガキたちがゲームボーイでポケモンをやっていたので、
「じゃ、英語でポケモンの歌でも歌ったら。一緒に歌ってあげるから」と言ったが、
「えー、やだよ」。
20人ほどの皆が、ネネの様子を見守っている。ネネがグズグズしていると、オバサンが言った。
「歌がいやなら、プールにでも飛び込んでもらおうかね」
「ほら、歌わなきゃ、プールに飛び込むんだってよ。早く歌いなさい」とうさぎはネネを急かしたが、
それでもネネは「待って、待って」と言うばかり。
うさぎはイライラした。こういう時にはとにかく機転が大事だ。グズグズしていたら、場がどんどん白けてしまう。
しかもここは外国だ。日本国内ならノリの悪さも「謙譲の美徳」だが、西洋の社会ではただの能無しだ。
一旅行者といえども日本を離れた以上、背中に日の丸を背負っている。
うさぎたちに対する評価は、日本に対する評価になるのだ。こんなところでグズグズしていてどうする?!
オバサンは容赦なくネネをせき立てる。
「歌か、プールか、さあどっちがいいかい?」
「ほら、もうアンタ、プールに飛び込んじゃいなさい!」とうさぎが言うと、ネネはTシャツを脱ぎ、
水着になってプールに飛び込んだ。オバサンは、
「おやおや、プールに飛び込む準備をちゃんとしてきたんだね」と言った。
みんながネネに拍手をして、この場は無事に納まった。
二ラウンド目を制したのも、やっぱりさっきの大人たちだった。
皆から集めたお金を賞金として彼らに渡すと、オバサンはまた参加者を募り、新たにビンゴが始まった。
だが今回はうさぎたちは参加しなかった。
ネネがボードを持っていないのに気づくと、
「おや、ジャパンにボードをやらないと!」とオバサンは言った。
きりんが「ノーノー、今回はパス」と言うと、
「なんだい、ジャパンはやらないのかい」とオバサンは鼻を鳴らした。
もう! ジャパン、ジャパンと気安く呼ぶなって。
あたしらはジャパンという名じゃないんだからさ!