ネネとうさぎが部屋に帰ったのはまだ5時半だった。 夕方のプールに飛び込んで体を冷やしたネネに熱いシャワーを浴びさせるため、 きりんたちより一足先に部屋に帰ってきたのだった。
この部屋はバスタブが付いていないが、コネクティングルームなのでシャワーが2か所ある。 けれど、一方のシャワーは壊れていてお湯が出ない。 もう一方のシャワールームの壁にはヤモリが一匹張りついていたが、お湯を出しはじめると、 あっと言う間に天井へと登っていき、見えなくなってしまった。
シャワーを浴び終えると、ネネが部屋にいるうさぎに向かって叫んだ。
「ママ、サンダルを取ってくれない?」
「なによ、裸足で出てくればいいじゃないの」
「やだ。足が汚れる」
「さっきまでビーチを素足で歩いて砂だらけになっていたクセに、何言ってるのよ」と言うと、
「だって、この床、汚いんだもん」とネネ。
まあ、確かに汚い感じはする。床の赤っぽいタイルのあちこちには白いシミがあって、ちょっと不潔っぽいかも。
けれどうさぎは、あの泥水色したカバを回し飲みで飲んでから、衛生とかそういうことは、
あんまり気にならなくなってしまった。いまさらそういうことを気にしても、もう遅いよ、って感じ。
これって、フィジーの生活に早くも適応してきたってことだろうか。
シャワーを浴びてしばらくすると、きりんとチャアが帰ってきた。
クローゼットの棚に、ツアーデスクでもらったおみやげのパンフレットを敷きつめ、衣類を整理して置き、
ふと気づくと、ネネはベッドに倒れ込んですっかり眠ってしまっていた。
あらら、まだ夕食を食べていないのに。
「おーい、今日の夕食は『モンゴリアンビュッフェ』だぞー!!」と耳元で囁いてもみたが、起きない。
ま、しょうがないか。昨夜は飛行機の中で夜を明かしたもんね。
お昼にたっぷり食べたから、お腹もそんなに空いていないし。
あーあ、あたしも疲れたー。結局、きりんと相談して、6時半にみんなで寝た。
トイレの水が止まり切らず、チョロチョロ音を立てるのを聞きながら――。