Fiji  マナ島とフィジアン

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【 バスケット作り 】

椰子の葉で帽子を編んでいるところ

最初「バスケット作り」という文字を黒板で読んだ時には、自分でバスケットを編むのをイメージしたのだが、 実際には、スタッフがバスケットを編むのを見学するのだった。

切り落とした大きな椰子の枝を葉ごとに小分けにし、それを編み始めたのは、 グレースという名の若いフィジアンのお姉さんだった。 フィジアンの女性はみな太っているものと思いきや、このお姉さんは長身で、すらっとした感じだ。 顔もなかなか美人。 髪を後ろで結い、ピシッとコンパクトに纏めているので、一見アフロヘアには見えず、 西洋的でオシャレっぽい雰囲気だ。
グレースは側にいたオージーの女性と英語でぺちゃくちゃ喋りながら、細い葉を互い違いに組み合わせていった。 葉を編む手つきも手慣れているが、英語の方も立て板に水で、お喋りと作業のどっちが本業だか分かりゃしない。
しばらくすると、子供たちとゲームをやっていたオバチャンが戻ってきて、帽子を編みはじめた。 オバチャンがやってくると、グレースはオバチャンとも話し始めた。こちらは今まで聞いたことのない言語。 きっとフィジー語なのだろう。

オバチャンと一緒に遊びから戻ってきた子供たちの中には、昨日も都度都度見かけた悪ガキ3人組がいた。 10歳くらいの、チビ・デブ・ノッポの3人組。 彼らは椰子の葉を切るナイフを握ると、余った椰子の葉を切り刻んだり、ブレの屋根を葺いている葉を切ったりと、 悪さを始めた。 悪ガキにナイフを持たせっぱなしにしておいて平気なのかとヒヤヒヤしていると、 悪ガキの一人、デブちんがオバチャンの髪にナイフを当てた。 するとオバチャンはナイフを持ったままの彼を背中からはがい締めにして言った。

「オマエの金タマを切り落としてやる!! コノッ、コノッ!!」

悪ガキたちはオバチャンが大好きだった。 「ユーニス、ユーニス」と名前を呼んで後ろをくっついて回り、ちょっかいを出すのだ。 この子たちの親はついぞ姿を見せたことがない。彼らはいつも3人でこの辺をウロウロしているのだった。
ユーニスはどうやら主にキッズクラブの担当らしいが、 ここのキッズクラブは「責任を持ってお子様をお預かりします」といった雰囲気ではない。 さっきの魚の餌づけのように、何かを始める時にはその辺にいる子をテキトーに集めて連れていく。 途中で誰かがいち抜けしても、気に留めない。予約など、もちろん必要ない。 好きな時に好きなだけ参加できる、自由気儘なキッズクラブなのだ。

自由気儘なのはキッズクラブだけではない。大人のアクティビティだって、似たようなものだ。 スタッフ同士で、或いはゲストとお喋りしながら、のんびりとやる。 スタッフもゲストと一緒になってのんびりしているのだ。 今だってほら、バッグを一つ編みおわったグレースが、 オージーの女性と一緒にファッション雑誌に見入って時間を潰している。

このオージーの女性はフレンドリーな人で、彼女が小さな女の子に
「どこから来たの?」と話しかけると、「ニュージーランド」とその子。
「ニュージーランドのどこ?」「テリナキ」
「ふうん、テリヤキ?」とオージー女性が聞き返すと、
「テリヤキじゃ食べ物じゃないか。日本の食べ物だよ」、ユーニスがガハハと笑いながら言った。

万事がこの調子だった。ここでは時間がゆっくりと流れているのだ。 「アクティビティ」というのは、もっと「アクティブ」なものかと思っていたが、 ここの「アクティビティ」はちっとも「アクティブ」ではない。 しかも始まる時間もアバウトなら、終わる時間はもっとアバウト。ときどきどういう理由でだか、勝手に中止にもなる。

翌日フィジアン・ブレにいると、悪ガキ3人組がやってきて、ユーニスに尋ねたものだ。
「ねえ、○○はまだ始まらないの?」と。
「何言ってるんだい、お前たち。さっきマークがお前たちをここで待ってたがね、誰も来ないんで、 とっくに中止にしたよ」とユーニスは言った。

「まったく、お前たちは大したフィジー・タイム(時間にルーズ)だよ。
なにしろフィジアンを待たせるんだからね」

そしてまたガハハと笑った。

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