Guam  親孝行の旅

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【 サンドキャッスル 】

メインディッシュ

ままりんとグアムに行くことが決まった時、まず頭に思い浮かんだのがサンドキャッスルだった。 ここは豪華なショーを見せてくれるところで、劇場の外観からして豪華絢爛。 まさにキャッスルといった感じだ。 華やかなものが好きな宝塚ファンのままりんを連れていけば、きっと喜んでくれるだろうと思った。

だが、サンドキャッスルに着いても、意外とままりんは淡々としていた。 どうも、こういったものには目が肥えてしまって、ちょっとやそっとじゃ感動してくれないらしい。 年度ごとのツアー価格改定で、なんと一昨日より6ドルも高くなったサンドキャッスルにせっかく来たのだから、 なるべく驚いて欲しいんですけど。

入口を入ったロビーの端に、足の長い踊り子さんがきらびやかな衣装を身に纏って立っていた。 お客はみな一列に並ばされ、その踊り子さんと写真を撮らないことには、会場へのドアに近寄れない仕組みである。 きのうのリバークルーズやフィッシュアイでも写真撮影・販売はあったけれど、 どちらも狭い桟橋という順路の中に組み込まれていたから、まだスマートだった。 ここは、広いロビーにわざわざ縄を張りめぐらして順路を作るあたりが作為的で、商魂丸出し。
「何としてでも写真を撮ってから会場に入ってもらいますよ」という意気込みが暑苦しい。

うさぎは、こういう写真を撮るのは嫌いではないので、これが「任意」だったら喜んで撮って貰うのだけれども、 「義務」となると、却って引いてしまう。
――と言いつつ、踊り子さんと同じポーズをつけて、ニコニコ笑って撮ってもらったけどさー。

写真を撮ったあとは一旦フリーになるが(売店を見ていってもらうため?)、 会場内に入る時はまた並ばなければならなかった。 会場に入ったお客から順々に座席に案内されるが、どうやらその座席は既に決まっているようだった。

うさぎたちの席は、一番前の列の一番はじっこ。あまりいい席ではなかった。 近年のサンドキャッスルでは、ディナーショーのコースが二種類ある。 普通のコースと「デラックスコース」と。
デラックスコースを選ぶと、良い席を優先的に取って貰えて、 メインディッシュが選べ、サラダが付いて、30ドル(4000円くらい)ばかり高い。
うさぎたちは普通のコースを選んだので、まあどこの席でも文句は言えない。 でも、最前列はガラガラで、隣の席も空いている。

空いているのなら、そっちにしてくれてもいいじゃないか

とは思う。「悪い席のコース」というわけではなく、優先順位が低いだけなのだから。 もっとも、すぐ斜め後ろの人たちがサラダの付いたデラックスコースだったことを考えると、文句も言えない。

座席がいいからこっちにしたのに‥

と、彼らの方こそ文句を言いたかったかもしれない。

席についてから料理が運ばれてくるまでは、だいぶ時間があった。 その間に、日本語のできる私服の営業がサイドメニューの注文を取りに来た。

「フルーツの盛り合わせはいかがですか? 30ドルになりますが」 

30ドル‥!! なんと4000円!! 値段を聞いてうさぎは即座に断った。
どんな豪華なのが運ばれてくるかと思いきや、あとで別のテーブルに運ばれてきたのを見たら、 数種類の果物が2〜3切れづつだった。

フルーツの営業が立ち去ると、また別の営業がやってきた。

「オードブルはいかがですか」

と。今度は値段を聞くまでもなく、ことわった。

3度目に来たのは、燕尾服を着込んだ日本語のできない給仕だった。飲み物のオーダーを取りに来たのだ。 そこでウーロン茶を頼んだ。昨夜のポリネシアンショーの薄いジュースに懲りていたので。

いろんな人が入れ代わりたちかわり、いろんなものを売りつけに来て、うさぎもままりんも、 ショーが始まる前から疲れてしまった。しかも、肝心な料理はなかなか運ばれてこない。
やっとスープがきたと思ったら、これがホントに上品な量! それを飲み干すと、メインディッシュまでがまた手持ち無沙汰だった。 オードブルやフルーツを注文して丁度いい具合になるような間が取ってあるらしい。 それらを注文していないからといって、メインディッシュを早めに持ってきてくれはしないのだ。

7時半頃になると、ショーが始まった。白人・黒人の美しいお姉さんたちが、長ーい足を誇らしく見せて踊る。 その後ろで、足の短い男たちが踊る。 どう見ても、男性ダンサーは、わざわざ足の短いのを選んだとしか思えない人選。 お姉さんたちの足の長さを引き立てるためだろうか。

お姉さんたちの歌と踊りが一段落すると、ティム・コーという国籍不明っぽい顔だちのマジシャンが出てきた。
「テンコー? 引田天功のパロディーかしら?」とままりん。さてねぇ‥。

マジックは大がかりだった。箱に入ったお姉さんが、移動したり、消えたり、入れ代わったり。 本当に不思議で、よーく見ていたにも係わらず、タネはさっぱり分からなかった。 こういう大掛かりなマジックって、間近で見れば、 種なんかすぐ分かっちゃうんじゃないかなと思っていたのだけれど。

ショーはきらびやかで楽しかった。 このショーの売りは、豪華な衣装と大がかりなマジック、それに加えて、本物のトラが出てくるということだ。 このトラ、別に芸をするでもなく、吠えるでもなく、ただおとなしくしているネコのごとき存在なのだが、 大きなトラが舞台にいるだけで、何となくショーが豪華さを増すから不思議だ。

まだショーを楽しんでいる最中に、給仕が飲み物の代金を請求に来た。 給仕さんが慣れない日本語で「オカネ、イマ」と言うので、ショーの鑑賞を一時中断して、 暗がりでサイフをゴソゴソと捜した。

ここではお客を楽しませることよりも、儲けることが先なのね。がっかり。

ショーが終わって会場を出ると、ロビーでさっき撮った写真の販売をしていた。一枚25ドル。3000円くらい。 他のところでは15ドルで販売していた思い出写真も、さすがにサンドキャッスルではゴージャス価格だ。 「見るだけ」と思ったのだが、見たら欲しくなってしまったらしく、ままりんが一枚買った。
やれやれ、ツアーデスクに何万も払い込んだ後でまた更にこんなにあれやこれやお金が掛かるとは思わなんだ。
予期せぬ出費にドルの持ち合わせがなかったので、日本円で買えるか、と尋ねると、売店で両替をしているという。 それで売店へ行くと、一万円札を73ドルと交換、それ以外は扱っていないという。 仕方なく、その条件で両替して写真を購入した。

この写真には、意外な「おまけ」がついてきた。
購入した写真のホールダーには、踊り子の隣りで写した写真の他に、もう一枚写真が張ってあった。 それは虎を背後に侍らせた踊り子の写真だった。 その踊り子が、ままりんに言わせると、うさぎにそっくりなのであった。
「あらー、この人、あなたにそっくり! 日本に帰ったら、これはうちの娘よ、って言ってみようかしら。 絶対みんな信じるわよ。ほら、まるっきり同じ顔してるじゃないの」
ままりんはホールダーに入った二枚の写真――うさぎの顔と踊り子の顔を見比べて言う。

確かにそういわれてみると、目がぎょろっと大きいところとか、エラが張っているあたりとか、 唇が薄いところとかが、妙にそっくりである。相手は明らかに西洋人なのだが。
「あなた、こういう顔してるから、外人と間違われるのねえ」とままりん。 そのうさぎを生んだのは、お母様、あなたなんですけど。
「本当に日本に帰ったらみんなに言ってみよう。よかったわ。この写真買って。 だっておもしろいじゃない?」とままりんはご満悦である。 うさぎとすれば、 こんなギンギンなビキニを着て虎の前でポーズをとっている女が自分だと思われるなんて恥ずかしくて、 とてもじゃないけれどままりんの友人とは顔を合わせられないと思った。 でも、ゴージャス価格の写真も、二枚でこの値段なら許せる。 採算を取るため、うさぎもこの踊り子は自分だと思うことにした。

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