ビクトリアピークから、ケーブルカー、バス、地下鉄と乗り継いでツェンワンに帰り着いた頃には、 もう時刻は夜の10時を回っていた。 なんとまだ夕食を食べていない。 あちこちで買い食いして歩いていたからお腹が空いているような気はそんなにしないが、 なにかちょっと口に入れられるものを買って帰りたい。 そう思って、近くにコンビニでもないかとキョロキョロしながらホテル方面へとぶらぶら歩き始めた。
パンダホテルとツェンワン駅を結ぶ黄色い道は、 駅の近くで、3つのショッピングビルを串刺しにしている。 ビルの中に並ぶお店を見ながら歩けるので楽しい。
けれどさすがにこの時刻ともなると、お店はだいぶ閉まっている。 それどころか、おっと、ビルの出口が閉まって、行き止まりになってしまった。 慌ててビルの係員に尋ねたら、「外を回るように」と教えてくれた。 どうやらビルが開いていない時間帯のために、ベランダのような外通路が用意されているらしい。 うさぎたちは一度入ったビルを入口まで戻った。
そしてそれは思いがけない幸運をもたらした。 さっきまで全く気づかなかったところに、スーパーマーケットを発見したからだ。 なんと駅の上に。駅から出てきたときには気づかなかったのも当たり前だ。 早速 「行ってみようか。閉まってるかもしれないけれど」 ということになり、エスカレータを上って近づいたらまだ開いていた! 皆は大喜びでスーパーに駆け込んだ。
入口を入った途端、妙な匂いがした。
この匂いは知ってる、ドリアンだ!
どこかにあるはず、と見回したらやっぱり、入口にほど近い大きなワゴンに山と積んであった。
「ねえ、ドリアンって食べたことある?」
「ない。一度食べてみたいと思ってはいるんだけど」
「じゃあ、買ってみる?」
「買っちゃおうか」
「でもホテル、持ち込み禁止かも?」
「ロビー広いし。バレないかも」
うさぎは小さめのを選んでカートのカゴにドリアンを一つ入れた。
でも、しばらくしてまたワゴンに戻した。
疲れきっているこの時間に、万が一にもホテルと悶着を起こしたくはないと考え直して。
商品のラインナップは、日本のスーパーとそれほど変わらなかった。 乳製品などは欧米からの輸入商品も多いし、カップメンなど、日本製が主流のコーナーもある。 でもときどき、「なんじゃこりゃ?」というようなものにも出くわした。
その一つは「甕ゼリー」。大きなカップに、ぷるぷると黒光したものがたっぷり入っている。
「なにこれ?」と言ったら菜々子ちゃんが教えてくれた。
「あらうさぎちゃん、食べたことない? 漢方薬のゼリーなの」
「‥。それっておいしいのかしら」
「おいしいとか、そういうことを期待して食べるものではないわね。
でも健康にいいのだそうで、日本でも最近ちょっと流行っているのよ」
‥そういわれたら食べてみないわけにはいかない。
そう高いものではなし、一つ買ってみることにした。
‥で、結果、それは「海外で食べた不味いものリスト」のトップに輝くこととなった。 いや、オーストラリアの"ベジマイト"に比べれば、香港の"甕ゼリー"はシロップがついていただけ、 まだちょっとマシだったかな。
それから「エッグタルト」。 これは、香港は今回が二回目という菜々子ちゃんによれば、 「香港といえばエッグタルト、エッグタルトといえば香港」なのだそうで、 いろんなお店のエッグタルトを食べ比べてみることが彼女の今回の旅の第一ともいうべき目的であった。 だから当然の成り行きで、「スーパーのエッグタルトも試してみなければ」ということになったのだ。 これはおいしかった。 すでに食べていた街のケーキ屋さんのタルトと比べても遜色なしといったところだろうか。
あと「肉髭包」。これも菜々子ちゃんのオススメである。 彼女の食べ物に関するリサーチはかなり力が入っている。 全くどうしてこんなによく知っているのかと思うくらい。 彼女によれば、これは見た目は普通のパンなのだが、こういう名前が付いている以上、 中に糸のように細く裂いた肉が入っているのに違いないのだそうで、 実際、ホテルに帰って開いてみたら、でんぶのような茶色い具が入っていて、なかなかおいしかった。
スーパーは楽しい。 日本においてもスーパーは楽しい気分になれるスポットだが、 海外のスーパーはもっと楽しい。 そして、夜11時、香港郊外におけるうさぎの発見によれば、 食べものに詳しい友人の解説付きだと、更に楽しいのだ。