二度目のバードガーデンを後にしたうさぎたちは、太子駅方面へと花屋街、 その名も「花墟道」やら「園藝街」やらを戻った。 この辺は素敵だ。 鉢植えを売る店、切花を売る店、造花の専門店など、その扱い方は様々であるにしても、 2ブロックほどびっしりと、色とりどりの花、花、花! その花の合間に、ときどき洋菓子店やパン屋などがあり、 うさぎたちはいろんな店でエッグタルトやココナツタルトを買い集めつつ、 ぶらぶらと歩いた。
花屋街が終わったあたりに公園らしきものがあるのは、昨日から気が付いていたことで、 近寄ってみたら、本当にそこは公園であった。 もう正午も回ったことだし、じゃあここいらで一つ、買い集めたお菓子でも広げて お昼休みにでもしようか、ということになった。
子どもたちは本当に公園が好きだ。
「シーソーだ! 乗ってもいい? 乗ってもいい?」とせがみ、
こっちが「どうぞ」と言うが早いか、もうまたがっている。
二人とももう11歳。
何もシーソーで遊ばなくたっていい年齢なのだけれど、
幼い頃からのクセが抜けないらしい。
パン屋で買ってきたクレープにかぶりつきながら
ベンチで子どもたちのその様子を眺めていたうさぎは、突然ウッとうめいた。
「なにこれっ?!」
「どうしたの?」と菜々子ちゃん。
「これ、ドリアンなんとか‥っていう名前だったっけ?」
「ううん、ドリアンじゃなくってマンゴーだったと思うわ。マンゴーパンケーキとか」
「そうよね、マンゴーだったはずよね。
でも、ドリアンの香りがする。隠し味に入れてあるのかなあ」
いや、別にドリアンが入っていることに文句を言っているのではない。
ただ、びっくりした。ドリアンの香りとの突発遭遇にびっくりした。
でもこれで、ちょっと気がすんだ。昨日スーパーで諦めたドリアンが口に入ったことで。
生クリームに混ざっていたので、味は全然分からなかったけれど、
とりあえず香港でドリアンを食べられたのだ。
ちょっと小さすぎるシーソーに飽きてしまうと、 子供たちは二人で仲良く肩を並べてどこかへ行ってしまった。 おっといけない、子供たちから目を離しては。 うさぎは荷物を菜々子ちゃんに頼み、子どもたちの後を追った。
おーい、どこへいったのー?
案外この公園は広いようだ。体育館らしき建物や、運動場があり、空いたスペースには
ベンチや卓球台が置かれている。花壇もきれいに整備されている。
そこで卓球の素振りをしたり、テーブルを囲んで中国象棋(シャンチー)に興じたりする人々の姿もある。
いずれもおじさんである。
これが日本だったらどうだろう。 平日の昼間から、いや、休日だって、おじさんたちがこんなふうに集っていたりするだろうか? ――いや、それはあまりないだろう。 会社や家族などといった枠組みの外にいる日本人のおじさんを想像するのは難しい。 やっぱりここは香港なのだ。景色は日本とそれほど違っていなくても。
バードガーデンでも感じたものだが、
「平日の昼間から公園でくつろいでいるおじさんたちの正体やいかに?!」という疑問に関しては、
のちに夫のきりんが穿った解答を与えてくれた。
彼曰く、彼らは「ただの普通の勤め人」だというのである。失業者でも金利生活者でもなく。
「でも、平日に公園でくつろいでいるのよ」と言うと、
「毎日同じメンツじゃあないんだろう。休みの日がそれぞれ違うんだよ、きっと」ですと。
なるほど〜。
やっと子どもたちが見つかった。
「こらー、もう危ないじゃない。ママたちの目の届く範囲にいてよね」と子どもたちをたしなめるうさぎ。
でももし子どもたちがずっと目の届くところにいたら、
おじさんたちの世界がここにもこんなふうに広がっていることに、気づかないで終わるところだった。
子供と一緒だと、手間はかかるが、ちょっと得することもある。