「ペナン」という地名は10年ほど前から知っていた。
けれど当時、それがどこにあるか、どんなところなのか、考えたことはなかった。
その頃よく見ていたテレビ番組の最後に
「あなたもこの番組に出演してみませんか?
出演された方はもれなくペナン4日間の旅にご招待!」
というフレーズが流れるたび、きりんとうさぎは首をかしげたものだ。
「なんでこれってグアムとかハワイじゃないんだろうね」と。
人気リゾートを差し置いて、
どうしてわざわざ「ペナン」だなんていうマイナーなビーチへの旅で視聴者を釣ろうというのだろう。それが不思議だった。
時は移り、近年。プーケット旅行以来、きりんとうさぎはアジアン・ビーチリゾートの魅力に取り付かれた。
そして、セブ、バリ、ビンタン、ランカウイなど、並みいるアジアンリゾートの中で、
次の旅行の候補地として上ったのは、他でもない、ペナンであった。
――なぜって? 他のリゾートに比べ、そのツアーが安価であったからである。
同じ日程で比べると、近場のグアムより安いくらい。
「そうかあ、どうして"ペナン旅行"なのか、やっと分かったよ。旅費が安上がりだからなんだ!」と、きりんは笑った。
もっとも、ペナンの魅力は「安く行かれること」だけではなかった。
かつて、外国文化の影響が薄いという理由でタイのプーケットを行き先に選んだうさぎであったが、
マレーシアにあるペナンに関しては、その逆の魅力に惹かれた。
「宗教の万博」――それがうさぎがペナンに持った印象であった。
マレーシアという国は、本来マレー人が多く住む地域であったが、海路において要衝の地にあったがために、
実に様々な文化や宗教、あるいは様々な民族の侵入を受けてきた。
そして、それらの文化・宗教は互いに入り混じることなく、現在に到るまで、並行して存続してきた。
マレーシアには、マレー人のほかに中華系が30%、インド系が10%いるが、混血は少なく、
何世紀もの間、異なる言語、異なる宗教、異なる文化を保ったまま共存してきたのだそうだ。
そしてそれゆえ、ペナンの中心街ジョージタウンでも、それぞれの民族が奉ずる3つの宗教、
つまりイスラム教、仏教、ヒンドゥー教、それにプラスして旧宗主国の宗教であるキリスト教の、
世界4大宗教の寺院が見られるという。
――なんとまあ、世界中の「異国情緒」が一同に会しているような街ではないか!
きりんはきりんで、うさぎが考えるのとは全く異なる魅力をペナンに見出していた。
彼にとっては文化や宗教はどうでもいい。
それよりなにより大事なのは、見た事もない熱帯の果物が食べられるかもしれない、という点なのであった。
そして今年(1999年)。ついにペナン行きを実現するときがきた。
うさぎたちが旅行を計画しはじめた頃、マレーシアはちょうど政情不安、HAIS(インドネシアの山火事によるスモッグ)、
新種の日本脳炎ウィルスの流行という三つのマイナス要因を抱えており、
これらについてはうさぎたちも全く考慮しないというわけにはいかなかった。
けれど、ペナンではいずれの影響も薄いし、全国的にも終結の兆しが見えるらしい。
外務省からとりたてて危険度の高い情報が流れているわけでもない。
うさぎたちは安心材料をかき集めて、逆に「今はチャンス」と納得することにした。
観光客が寄り付かないような時期は、ツアー料金が安めで、予約もとりやすいからだ。
さて今回の旅行の目的は、
きりん:ドリアンを食べること、
うさぎ:トライショーで4大宗教の寺院を見てまわること、
ネネとチャア:プールで遊ぶこと。
宿泊するのはシャングリラグループのラササヤンリゾート。 隣のパームビーチ、ゴールデンサンズと合わせて「シャングリラ・ビレッジ」と呼ばれ、 宿泊者はエリア内ならどのホテルの施設も自由に使用できる。 それが魅力で、ペナンに行くならこのエリア、と前から決めていたのだ。