ペナン最後の晩餐は、題して"The Road to Oriental Spice" (東洋の香辛料へと続く道)ビュッフェ。
「コーヒーガーデン」でやっていたエスニック料理中心のビュッフェである。
ここへはきりんとうさぎの二人だけでやってきた。
本当は子供たちも連れてきたかったのだが、まだレストランの開かぬ夕方のうちに彼らはまた眠くなってしまったので、
ゴールデンサンズのビーチサイドで焼いていたサティ(マレー風ヤキトリ)と、ラウンジのケーキを慌てて食べさせて、
寝かせてしまった。
席に座ると、陽気な大男が飲み物の注文が聞きにきた。ラササヤンには珍しい、大雑把な性格の給仕である。
「ジュースには何があるの?」とうさぎが尋ねると、彼が指を折りながら、
「グアバジュースと‥」といいかけた。
ところがそこに何か割り込みが入り、彼はそれに気を取られた。
そして彼は、気を取られたまま、注文を聞かずに行ってしまった。
「注文を聞かずに行っちゃって、どうするんだろうね」しばらくしてきりんが言った。
「‥何だかグアバジュースを持ってくるような気がする」とうさぎは言った。
そして、案の定。うさぎの予感は的中した。目の前に置かれた二つのグアバジュースを見て、うさぎたちはしばし笑い転げた。
さて、ビュッフェで、うさぎはひたすら生野菜ばかり皿に盛り、イタリアンドレッシングをたっぷりかけた。
席に戻ってそれを食べると、栄養素がずずずわ〜っと体の隅々にまで染み渡っていくような気がした。
きのうお腹を壊して以来、最小限の食事しか摂らないようにしていたので、ビタミンが徹底的に不足していたらしい。
うさぎはビュッフェエリアにとってかえし、もう一皿分「ビタミンの素」をよそってきた。
一方、きりんの方はひたすら長いクシにささった肉を食べていた。 マトンか何かだが、ほとんど味付けをしていないので、万国共通の味覚である。コックが目の前で焼いてくれるのが嬉しい。
3皿目、うさぎはデザートへと突入した。「東洋の香辛料」とは何の関係もない西洋のデザートがほとんどではあるが、 なかなか充実したラインナップである。これを見たら、甘党のネネがさぞかし喜んだろうに。 せめてうさぎがいっぱい食べて、思い出話を持ち帰ってやろう。
帰りしなにもう一度ビュッフェエリアを見回すと、二人とも全く手をつけなかった料理がたくさんあったことに気付いた。 カレーや、マレー風のチャーハンなど。 このビュッフェのお題目である「東洋の香辛料」がたっぷり入ったものは何ひとつ口にしなかった。 東洋の料理で唯一食べたものは、もち米をココナッツミルクで固めた真っ赤なデザートのみ。
ああ、食に関する許容範囲のなんたる狭さよ‥。
たかがこの程度の文化の違いを拒絶するのでは、うさぎは到底、コスモポリタンにはなれそうもない