セブの5つ星リゾート・プランテーションベイ。その公式サイトの紹介文はこんな書き出しで始まる。
プランテーションベイは、マクタン島でも最も食えないと思われていた土地に位置しております。
ゴツゴツとした月面のごときサンゴ岩に覆われ、雑草しか生えず、満ち潮の度に水浸しになりさえする土地でありました。
そしてこんな一文も。
最初の6年間というものは、失意と葛藤の連続でありました。
計画があまりに空想的と揶揄され、ことごとく融資を断られたためであります。
けれどその後、幸いにも複数の銀行の説得に成功し、1996年、 水浸しの土地にはその地形を逆手にとった人工ラグーンが作られ、晴れてプランテーションベイリゾートは産声を上げた。
セブのプランテーションベイリゾートは、きりんが以前から憧れていたリゾートであった。
広大な敷地に作られた人工のラグーン。
その広々とした解放感と、水辺の景色の美しさは、泊ったことのある者でないと想像が難しいという。
うさぎなんぞは、その難しい想像をハナから諦めてしまったクチであったが、きりんは違った。
彼はプーケットのラグナエリアで見た人工ラグーンの美しさから、プランテーションベイの美しさもかくあらんと、
心に想像図を描いていたらしい。セブの旅行パンフレットを眺めるたびに、「コレだ、コレなんだよ」と一人頷いていた。
さて、年も改まったある日のこと。きりんは通勤途中、一枚のチラシを見つけた。
「初夢フェア」と銘打ったその黄色い紙は、プランテーションベイに泊る4日間のツアーの案内であった。
「ついに出てきたよー! セブって今までどうしてかって思うくらいツアー価格が高かったけど、
この価格なら納得して行かれるよなあ!」
うきうきしながら早くも頭の中でそろばんをはじき始めたきりんに、うさぎは冷たい視線を投げかけた。
「そりゃたった4日間のツアーなら安いでしょうよ。わたしはイヤですからね、
正味2日間のために片道1日かけていくなんて。疲れちゃう」と。
それでもきりんはひるまなかった。
「ヨシ、2月の下旬はセブに行くぞ。決定! 明日申し込んでくるから」と言い放つと、子どもたちと一緒に床に入り、
眠ってしまった。
一人取り残されたうさぎはしばらくボーゼンとしていたが、とにかく納得した上で旅行を申し込みたいものだと思い、
パソコンの前に座った。
「セブ」「プランテーションベイ」等で検索をかけると、先に紹介した公式サイトが引っかかってきた。
リゾートの公式サイトは数あれど、これだけ丁寧に作られたサイトは珍しい。うさぎはその隅から隅までを夢中になって読んだ。
プランテーションリゾート、それは素晴らしいリゾートであった。
一体どうして今までこのリゾートの素晴らしさに気付かなかったのだろう。
フィリピン一広い真水のプールを、世界一広い海水のラグーンがとりまき、その周りに低層2階建ての宿泊棟が並ぶ。
しかもそのラグーンで泳ぐことさえできるのだ!
しかも、素晴らしいのはそういった施設だけではない。
従業員がチップを一切受け取らないという「ノー・チップ・ポリシー」を徹底していることに、うさぎは好感を持った。
どうしたらゲストが安らげるか、喜ぶか。
それを真面目に考え、真面目に実行しているリゾートの姿勢がそこに見えたからである。
翌朝起きてきたきりんに、うさぎはこう告げた。
「ねえ、たぶんこれは世界に二つとないリゾートだわ。わたしもなんだか盛り上がってきちゃった。
だからお願い、延泊料金が高いのは承知の上で言うけれど、せめて5日間にして」と。
こうして、セブ行き5日間は決定したのである。