朝食を終えて、子どもたちには待ってましたのプール遊び。時刻は8時半。 広大な塩水ラグーンと真水のプールは、すでに朝の掃除を終えてコンディションが整っているはずだ。
水着に着替えたプールへの道すがら、ロッジの隣りにある売店、
その名もハッピーな"ジャマイカマーケット"にチャアの浮き輪を買いに入った。
この売店は八角形の壁面の上に藁葺きの屋根を載せた、小粋な建物である。店内には浮き輪、日焼け止めなどといった必需品、
ちょっとしたスナックの他に、Tシャツやらキーホルダーなどのお土産品がところ狭しと並んでいる。
プランテーションベイのロゴの入ったオリジナル商品も多く、その色調が抑え目で上品なため、
店自体もただの売店にしてはどこかシックな雰囲気であった。
浮き輪は、チャアがゆったりと体を預けられるちょうどいい大きさのものが手に入った。 透明なターコイズブルーで、水の中が見えるところが気に入ってチャアが選んだ。 どうして抜き手の達人が浮き輪を欲しがるかなー、とうさぎには不思議なのだが、チャアの主張するところによれば、 プールに浮き輪は欠かせないのだそう。セブに来る前も、さんざ日本からビート板を持っていくと言い張っていた。
さて、店を出てプールに到着すると、子供たちは早速まだ水温の低いプールに飛び込み、
「う〜〜! 冷た〜〜〜い!」
と、悲鳴を上げた。その声のなんと嬉しそうなこと!
プールにはきりんとうさぎ一家のほかに誰もおらず、
学校のプールの4倍もあるフィリピン一広いプールはネネとチャアの貸しきり状態。
プールに浮かんだレストランは賑わっているところを見ると、8時半というのは世間ではまだ朝食の時間なのだ。
風がけっこうあるし、水はまだ冷たい。けれどそんなことはお構いナシ。ネネとチャアは早速プールで遊び始めた。
しばらくその様子を見ていたうさぎは、「プールに浮き輪は欠かせない」というチャアの言い分を突然理解した。
プールで「泳ぐ」だけなら浮き輪はいらないのだ。でも、プールで「遊ぶ」には、浮き輪が必要なのだ、と。
そこでうさぎはまたジャマイカマーケットに引き返し、ネネの分の浮き輪も買ってきた。部屋、売店、プール。
この3つが1分と離れていないところに固まっているので便利だ。
さて、浮き輪が二つそろうと、プール遊びは本格的になった。浮き輪ごとくるくる回ったり、 絶対沈まない簡単シンクロナイズドスイミング、イルカの輪くぐり。それに、"海溝"を渡るのにも浮き輪が役立った。
このプールは深さが場所によってまちまちで、3分の1ほどは幼児でも足がつくくらいの浅瀬だが、
別の3分の1はチャアがやっと背が立つくらいの4フィート、そして残りの3分の1は6フィート以上ある。
6フィートといえば長身のきりんの背がやっと立つ程度、最深部はなんと9フィート(270センチ)もあるのだった。
つまりプールの3分の1はかなり深い部分で、うさぎはここを"海溝"と呼んでいた。
深い淵の存在は、子どもたちにとってはマイナスかと思いきや、そうでもない。
浮き輪に乗って海溝を渡るのが、また魅力的な遊びらしかった。深い水の怖さと浮き輪の安心。
怖さと安心のバランスがちょうどいいらしく、身を預けることで、浮き輪への愛着がどんどん深まっていく。
赤ん坊を乗せる歩行器というものがあるけれど、この水の中では、浮き輪はさながらネネとチャアの歩行器なのであった。