Philippines  セブ・マクタン島

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【 デュオデカスロン きりん編 】

キス

一時間かけて朝食が済んだころには、うまい具合に雨が上っていた。まだ空は薄曇りだが、遠くの空はきれいな空色。 これからどんどん晴れてくるのが予想できる。さあ、今日はきりんのデュオデカスロン挑戦だ。

――え? デュオデカスロンってのは何か、って? 

ならば「トライアスロン」はご存知だろうか。 もちろんそれは、マラソンと競泳と競輪の3種目を合わせた競技のことである。
デュオデカスロンは、"duodec"つまり12の種目を合わせたプランテーションベイ独自の競技で、 無料アクティビティのひとつなのであった。 部屋にその内容を詳細に記述した冊子があったのだが、それがまたウィットに富んだ愉快な内容で、 うさぎは是非ともやりたくなってしまった。 けれど、いまいち体力に自信がなかったので、まずはきりんを小手調べに使うことを思いつき、 彼をそそのかしたというわけである。

で、部屋にあったその記述の内容は、以下のようなものであった。

1 スポーツコーディネーターにデュオデカスロンをやりたいとの旨を伝え、濡れても構わない服装で、 キリマンジャロカフェの前の円陣を出発する
  ヨーイドン! モガンボフォールへ脱兎のごとく向かおう
2 モガンボフォールの前にある階段を登り、左右どちらかのウォータースライダーに寝転び、 むちゃくちゃなスピードで考えなしに滑り降りよう
3 もしぎっくり腰になっていなければの話だが、スライダーのふもとからつり橋までノースラグーンを泳ぎ渡り、 つり橋を乗り越えよう
4 釣堀まで、キッズラグーンを横切って走れ! 歩いちゃダメだぞ!
5 サメを探し、頭をなぜよう
6 ウェストラグーンを漕ぎ渡り、ガゼボ(東屋)でビールを一気に飲み干せ
7 タダの阿呆になってしまわぬよう、ユカタンハウスの裏手にあるゲーム室まで歩き、そこでダーツを投げよう
  的に命中させるか、バーテンダーを壁に打ち付けるかするまで投げ続けること
8 濡れた服のままでレセプションロビーへ入り、ほっぺたにキスさせてくれる客室係(なるべく異性)を探せ
  もし誰も見つからなければ、オウムにキスすること
9 あなたを待ち受けている自転車に乗り、ハバナの泉まで行こう
 但しジェリーとカールの二人を追い抜かないこと
  この二人、総じていいスタッフではあるのだが、 アスファルトと人間の見分けがつかないという欠点があるので注意すること
10 ハバナの泉からラグーンBのカヤックに乗り込み、洞窟を回ったら、ペニンシュラビーチへ上陸しよう
11 ダイブロックまで走れ
12 頭から飛び込め! 水面に頭が出た時点で終了

ね? なんだかよく分からないけれど、面白そうでしょ?

今日のデュオデカスロン開始時刻は10時。それまで、きりんにはウォーミングアップと、各ポイントの下見をしてもらい、 うさぎはビデオ、ネネはカメラの操作をおさらいし、本番に備えた。

さて10時に集合場所であるタオルステーションに赴き、そこにいたスタッフに声をかけると、彼は
「おお、デュオデカスロンに挑戦したいのかい!」と愛想よく歓迎してくれた。 どうやら今日の挑戦者はきりん一人の様子。けれど、彼はきりん一人のために、すぐさま準備にとりかかってくれた。

30分近く待っただろうか、ようやくデュオデカスロンの準備は整った。 キッズラグーンの脇にサーフボードが置かれ、ガゼボにはビールが用意された。 そして、最初に12の競技の内容が説明されたが、それは部屋の冊子の内容とは多少異なっていた。 たとえば、今は釣堀にサメがいないので、サメの頭をなでるメニューは割愛されたらしい。 それが分かると、きりんはホッとしたような顔をした。

さあて、準備が完了したところで、プールサイドからスタッフの男性――あとで知ったが、 彼は"マニックス"という名だった――と共にきりんは行き、次に姿が見えたのはモガンボ滝の階段付近であった。 マニックスは、きりんが迷わないように要所要所で待ちうけて誘導し、声援を送ってくれているようだ。

しばらくすると、きりんは右側のウォータースライダーを降りてきて、そのあとラグーンをおよぎ渡り始めた。 そして、橋の上でこっちだ、と手をふるマニックスと共にラグーンサイドを走り始めた。 おやおや、ここはキッズラグーンの中を走るんじゃなかったかな?  きりんがキッズラグーンの中を走ってくるものと思い、真水プール脇で待機していたうさぎたち3人は隙をつかれ、 ビデオとカメラを持ってあわててきりんを追いかけた。でもとても追い付けやしない。

きりんはキッズラグーンの端までくると、そこでツルッと足を滑らせ、ラグーンにドッボーン!  けれど慌てて体勢を立て直し、そこからサーフボードに乗ってラグーンをガゼボの方へと渡り始めた。 うさぎたちはビデオとカメラを構えながらも、きりんに少しでも近づこうとしたが、きりんは早くもガゼボに上陸すると、 ビールを一口飲んで、建物の影に消えてしまった。おっと、一体どこへ行ったんだ?  と探すと、ゲーム室から出てきたきりんとマニックスの姿が。ロビー方面に走っていく。 おやおや、もうダーツを投げてしまったかー。

次はキスだ。これを撮り逃してはならない。 ツアーデスクにこしかけた女性の手(頬は勘弁してもらったのだろうか?)にキスをするきりんの姿を残すため、 この名場面はリフレインしてもらい、何とかビデオとカメラに収めた。

そのあときりんはロビー近くに待機していた自転車で、マニックスの先導を受けながら、時計回りにビーチの方へ。 その後姿をビデオを回しながら見送ると、うさぎたちはまたプールサイドへと戻り、 きりんがカヤック乗り場に現れるのを待った。

予定通りハバナハウス近くの陰から出てきたきりんは、カヤックに乗り込み、 ラグーンを大回りしてうさぎたちの待機しているダイブロックへ。 いつの間にやらマニックスもそのそばにやってきていて、ストップウォッチを片手に、 「おお、パパはなかなかいいタイムだぞ」などと言っている。

きりんは、ダイブロック近くにカヤックを乗り捨てると、ダイブロックに登り、頭からラグーンへ飛び込んだ。 きりんの頭が水面に出ると、マニックスはストップウォッチを止め、トライアル終了。タイムは13分58秒であった。

きりんが水からあがって来ると、マニックスはきりんの肩を叩いて言った。
「よくやったな。けっこういいタイムが出たよ。年はいくつ? え? 40? その年にしちゃいいタイムだな。 ――まあビールの残りでも飲み干してよ。タフな男にゃ軽すぎるビールだけどな」
ビールのビンを見ると、フィリピン産として名高いサンミゲールだった。きりんはもうヘロヘロ。 ビールを少し飲むと、デッキチェアーに伸びて眠ってしまった。

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