空港から30分ほどで、車はシャングリラ・ラサ・セントーサに到着した。
フロントデスクにジュディさんと赴き、まずはチェックインだ。
フロントにいた女性は、マレー系の顔立ちだった。
シンガポール訛りの英語かと思いきや、ジュディさん同様、標準的な英語をきれいに話す。
うさぎはちょっと安心して、ゴールデンサークルの会員証をカウンターに差出し、
「コネクティングルームの待ち行列に加えていただいていたんですが、取れていますか」
と尋ねた。
すると、ジュディさんが怪訝そうな顔つきでこっちを見た。
ジュディさんが「朝食はナシでしたよね」と言ったので、
「会員はルームサービスの朝食がタダになるんですよね」
とうさぎがフロントの女性に念を押すと、ジュディさんは慌てた。
「え? えっ?? そんなことってあるの?? いいのかしら?
朝食ナシのツアーで朝食が無料だなんてことが? 会社に帰って聞いてみなくっちゃ!」
ときどきツアーの係員は煙たいことがある。
あらいやだ。それには及びませんことよ。
お願いだからそっとしておいて頂戴。
と、これはうさぎの内なる声。
一方、フロントの女性は澄ました顔で、
ゴールデンサークルの会員番号をパソコンに打ち込んでいる。
「18歳未満の子どもは会員登録資格がありませんよね。
子どもの分の朝食はどうなるのですか?」とうさぎが問うと、
「子どもは半額です」とのこと。
さらにうさぎが欲を出して、
「すみません。部屋の件ですが、
もし隣りの部屋とコネクティングになるスイートに空きがあれば、
会員特典で一室を有料アップグレードしていただきたいのですが」というと、
ジュディさんはハッと息を飲んで、そのまま黙ってしまった。
もはや自分の出る幕はないと判断したのだろう。うさぎはその様子に、内心ほくそえんだ。
そうそう、あなたは黙って見てらして。
フロントの女性は、「あいにくそれはできません」とあっさり言った。
「ですが普通のコネクティングはお取りできます。どちらもシービュールームです」
「ああ、それで結構です」とうさぎ。
「部屋は普通のコネクティングルーム。
ルームサービスの朝食は大人タダ、子ども半額ですね。
アメリカンブレクファストは通常の金額ですか?」と確認すると、
「アメリカンブレクファストは通常価格です。
ルームサービスの方は、会員の部屋にお泊りである限り、無料です」
‥は? じゃあ子どももタダ?
おとなしく脇でこの会話を聞いていたジュディさんが、ここで一気に喋り出した。
「結局、子どもの朝食はタダなの? それとも半額なの?
○×%*〜>▲※#@◇×$дЩё???」
それに対し、それまですまし顔で言葉少なだったフロントの女性が、
これまたジュディさんめがけてダーーーッと一気にまくしたてた。
「○×%*〜>▲※#△*&$▽%■△×%℃★◎*@▽△лЭ〜!」
‥えっ? えっ?? 何? 何て言ってるの? 分からないー!
英語のような、英語でないような‥。
どうやら英語ではあるらしいけれど、普通の英語と語感が違う。妙に直線的な発音だ。
ひょっとして、これがいわゆる"シングリッシュ"??
うさぎがあっけにとられてボーゼンとしていると、ジュディさんが、突然こちらを向き、 に〜っこりとして言った。 「‥ということだそうです。分かりましたね?」
えーーーーっ! 分かるわけないじゃん!
ああ、悔しい。これはジュディさんの報復だ。 自分で仕切るつもりが、最後の最後でジュディさんに一本とられてしまった。
うさぎは悔しかったが、話の内容がさっぱり分からなかったので、
仕方なしに小さな声でモゴモゴと尋ねた。
「結局、子どもの朝食はタダ‥なんですよね?」
「会員と一緒の部屋の非会員はタダだそうです」とジュディさん。
「じゃ、子どももタダ?」と言いつつ、うさぎはもう面倒になっていた。
ああもういい。半額でもタダでも、どっちでもいいや〜!