「シャングリラはどこの国でも、シャングリラっという感じ」
という評を見たことがある。
ペナンで宿泊ホテルを含め3軒のシャングリラを訪れ、フィジーでも宿泊したうさぎには、
なんとなくその「シャングリラっという感じ」が分かり、なるほどと思って大いにウケた。
そして今回は三度目のシャングリラ滞在。
きっと「シャングリラっという感じ」なんだろうと予想して来てみたら、
やっぱり「シャングリラっという感じ」だった。
プールエリアに出た瞬間にそう思った。
緑色の木々に囲まれ、淡い水色や、濃い群青色のタイルを敷き詰めたプールは、
世界中から集まった人々で賑わっており、
小さなウォータースライダーでは様々な肌色をした子どもたちが水しぶきを上げている。
日陰のデッキチェアはすでに満員だったので、
空いているのをパラソルの下へズルズルと引っ張っていき、うさぎは自分の場所を作った。
シャングリラではいつも木陰のデッキチェアを探すのが一苦労。
木陰も多いが、人も多いから。
いつだってプールエリアは大盛況で、いろんな国の言葉が飛び交っている。
この明るさ、この賑わいと人種のるつぼ状態が、
うさぎの考える「シャングリラっという感じ」だ。
足先をつけてみると、プールの水はとてもぬるく、浅いところはお湯のよう。 これも「シャングリラっという感じ」だ。
プールサイドでは、
木に繋がれた極彩色のオウムが、くちばしで鎖を解こうとやっきになっている。
ビーチ脇では、暑苦しい服を着た50〜60人の団体さんが、大きな垂れ幕を持ち、
写真撮影をしている。
木立の蔭から見えるビーチの砂は白く、沖にはタンカーが見える。
あたりに漂うのは、すこしガスくさいような都会の空気。
この辺は、「シンガポールっという感じ」なのかもしれない。
プールサイドのそここちらには植え込みやら芝生やら、 あまつさえちょっとした東洋風の一角までがあった。 楽しげな庭園の演出もシャングリラのお家芸、 まさにこれも「シャングリラっという感じ」だ。
「ママッ! そこっ!」
チャアの声にびっくりしてその指差す方を見ると、
植え込みの一つからのっそりと大きなトカゲが顔を出していた。
頭の先からしっぽの先までが1メートルはあろうかというバケモノトカゲ。
そいつはコンクリートの道を悠然と横切り、別の植え込みに姿を消した。
チャアは怖がりもせず、大きく目を見開いて、その様子をしげしげと見ていた。
もしこれがヘビだったら――とうさぎはふと考えた。
もしもヘビがリゾートにいたりなんかしたら、絶対に許せないと思う。
だけど、こんなに大きくてもトカゲだと、
その南国らしさをむしろ好感してしまう。それは一体どうしてなんだろう。
同じ爬虫類なのに。足があるせいなんだろうか。
ろくに何もしないうちにお昼になり、お腹も空いてきたので、
プールサイドで軽食を食べることにした。
フィッシュ&チップス、ステーキとサラダのセット、海産物のフリッター、揚げ豆腐、
それにライムジュース。
皆がそれぞれ食べたいものを無作為に選んだら、
お会計がなんと5000円近くにもなってしまった。
運ばれてきたものは、ごく普通の軽食だった。う〜ん、これで5000円‥。
しかも、サラダにつけるドレッシングをシーザーと指定したはずなのについていない。
ウェイトレスを呼び止めてもう一度頼んだけれど、
いい返事の割にはついに運ばれては来ず、味のないままで食べるハメになった。
きっとシーザードレッシングを切らしていたのだと思う。
切らしていても、「あいすみません、ただいま切らしておりまして」とは答えずに、
なぜかつい「ハイハイ、持ってまいりますとも!」と答えてしまうのが、
うさぎの考える「南国っという感じ」だ。
ここはシャングリラである前にシンガポール、シンガポールである前に南国なのだ。 そう考えて諦めることにしよう。