ANAホテルは国立植物園にほど近い、緑濃い一角にあった。 この界隈にはイギリス領の打ちっぱなしのゴルフ場や、 「入ったら撃つぞ」と但し書きされたジョホールバル王の広大な領地、 それに敷地が一区画1000坪ほどの屋敷が並ぶ屋敷町などがある。
趣向を凝らした広大なプールや贅を凝らした巨大なロビーなどといった派手さはないものの、
ロビーに一足踏み入れると、伝統あるホテル然とした重厚な内装と、
スタッフの丁寧でもの静かな対応が待ち受けていた。
「すみません、お水を一杯」とお願いすると、
「かしこまりました、奥様」と蝶ネクタイの男性が笑顔で頷き、
濃い茶色の背景に金色の金具が光る華やかなレストランの奥から、
上品な面持ちの女性が、よく磨かれたグラスに水を入れて運んできた。
チェックインを済ませて部屋に向かうと、 廊下に敷かれたふかふかのカーペットが音を吸収して、足音さえ消えた。
部屋はごく一般的な広さだったが、 ミディアムオークの調度が折り目正しさを演出しており、 出窓の外には借景の豊かな緑が広がっていた。
部屋についたのはもう夕方。 一日バスに乗っていただけなのに、みな疲れていたので、2時間ばかり眠ることにした。 眠りから醒めたら、今夜はナイトサファリだ。