Singapore  セントーサ島と動物園

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【 駐在員御用達 】

不用品掲示板

朝。きりんとうさぎは朝食を買出しに行くことにした。
外は雨が降っていたけれど、大丈夫。折りたたみ傘を日本から持ってきた。

ANAホテルからほんの少し坂道を下ると、タングリン通りにつきあたる。 その通りの向こう側には「タングリンモール」というショッピングセンターがあり、 うさぎたちはその地下の大型の食料品スーパーで朝食材料を物色することにした。

スーパーでまず目についたのは、おびただしい種類の果物だった。 りんご、オレンジ、グレープフツーツ、洋ナシ、ラズベリー、ダークチェリー、イチゴ、 ブルーベリー、すいか、パイナップル、ジャックフルーツ、マンゴー、キウイ、アボカド、 ドラゴンフルーツ、ロンガン、プラム、アンズ、マスカット、マンゴスチン‥。 珍しいのやら、そうでないのやら、とにかく思いつくかぎりの果物がたいていある。 唯一なかったのはドリアンぐらい。 今はちょうど旬真っ盛りのはずだが、その強烈な匂いゆえ置けなかったのだろうか。

果物のラインナップにはさすが常夏の国だと感じ入ったけれど、 他の売り場は、欧米諸国のスーパーとさして変わらなかった。 ジュース類や乳製品の豊富さや、ばかでかいスナックも、 英語圏でおなじみのアイテムである。 それもそのはず、売り場にいるお客さんは西洋人ばかり。 どうやらここは海外駐在員御用達のスーパーらしい。

クラッカー、マンゴスチン、スナックなどを買ってレジを出ると、 柱に不用品情報コーナーが作ってあるのを見つけた。
どんなものが出てるんだろう? 興味をそそられ、貼ってあるメモに見入った。 ダイニングの家具、バイク‥。大きなものが多い。 価格も1000ドル(7万円)以上が当たり前。ガレージセールの広告も散見された。

何十枚もあるメモを一つ一つしげしげ観察していると、 となりに立っていた西洋人の男性が話し掛けてきた。
「こういうのに興味がおありですか?」と。
やわらかいものごし、聞き取り易い英語。 年の頃は30代前半の、育ちの良さそうな紳士だ。
「ええ、とても興味を惹かれます」と答えると、
「この街にはいらしたばかりですか?」と紳士。
「はい、日本から来ました」
「日本にもこういう掲示板はありますか?」
「ええ、ありますよ。でも、こんなに大きなものはあまり出ません。 子供の衣類や、家具ならせいぜいベビーベッドくらいですね」
「なるほど。ベビーベッドはすぐに必要なくなりますからね。 どうして大きなものが出るかというと、この街には海外からの駐在員が多いからですよ。 みなせいぜい5年しかこの街にいませんから、 本国に帰るときには家財道具を売っていかなくてはならない。 それでこういうものが出るんですね」
「ああ、なるほどね。‥あなたはどちらからいらしたのですか?」
「イギリスです」
なるほど。この折り目正しい英語はやはりイギリス人のものであったか。

きりんが買い物を袋に詰め終わったようなので、「あら、もう行かなくちゃ」と言うと、
「ではシンガポールでの暮らしを楽しんでくださいね」と英国紳士は言った。
サンキューと挨拶しつつ、内心うさぎは苦笑した。 どうやらこの界隈は駐在員の住まいが多いらしい。 きっと彼は、うさぎたちも駐在員だと思ったのだろう。 だけどうさぎたちはツーリスト。暮らしを楽しむ間などあらばこそ。 明日はもう日本に帰るのだから‥。

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