ただ今、朝の9時前。子供たちにせがまれて、もうシェラトンのプールにいる。
朝一番なので、プールの中にはまだ他の誰もいない。プールに面したテラスで朝食の真っ最中だ。
笑顔がさわやかな若い男性スタッフが一人やってきて、デッキチェアのマットレスを叩き始めた。
「ビート板を貸して欲しい」と頼むと、彼はプール脇の物置から色とりどりのを出してきてくれた。
紫、黄、赤、青、白、黒。大きくて新しい、素敵な板だ。
子供たちは好きな色の板を選び取ると、ぬるんだ水に招かれて、待ってましたとばかり、プールに飛び込んだ。
シェラトンのプールは素敵だった。見事な庭園の中に、幅3メートルほどのプールがうねっている。 その何百メートルもの長さのプールは水の流れこそないものの、まるで川のようで、 どっちが上流かも決まっているように思えた。 川の両端はそれぞれ広くなっており、その片方は川の始まり、もう片方は川の終わり ――すなわち海をイメージしているように思えたからである。 川の源には生い茂る葉に囲まれた小さな滝があり、海はだんだん浅くなって、 本物の砂が敷かれた砂浜に打ち寄せるのだった。
とりわけネネたちのお気に召したのは、この砂が敷かれた波打ち際であった。 本当に波が打ち寄せるわけではないのだが、彼女たちはこの場所がいたく気に入り、 水の中の砂底にどっかと腰をおろし、ずっと水と砂と戯れていた。
「海」の砂浜で遊んでは、ビート板に乗って「川」をさかのぼって探検しに行き、
また「川」を下って「海」に帰ってきては、また砂と戯れる――。
こうした遊びを何度も繰り返して、午前中の数時間は瞬く間に過ぎていった。
昼前になると、そろそろ他の人の姿もぽつぽつ見かけるようになった。
大人の姿もあったが、この砂浜で歓声をあげて遊ぶのはやっぱり子供たちだ。
ネネは二才くらいの金髪の坊やに気に入られてしまい、しばらくその子に付き合って遊んだ。
小さな子があまり好きではない、まして男の子は嫌いなネネが、言葉も通じない男の子と抱き合って遊んでいる――、
それはちょっとした驚きだった。
11時頃、早くもきりんとうさぎはお腹が空いて、「食べに行こう」と子供たちをさそったが、
二人はすっかりプールに嵌まってしまっていて、
「どっかでお店捜してきて。ここで待ってるから」という始末。
とても着替えてレストランへ行こうとは言えない雰囲気だ。
しかたなくドラッグストアでスナックをどっさり買い込み、
「またすぐにプールに戻ってくるから」という約束で、やっと子供たちをビーチに引っ張り出した。
海を模したプールであれだけ喜ぶのだから、本物の海ではさぞかし――と思ったのだが、予想は外れ、 二人とも「いつプールに戻るの」の大合唱。 スナックを食べ終えると、そそくさとプールに戻り、さっきの遊びを再開した。 さっきの金髪の坊やは、プールに戻ってきたネネを見つけるなり、パッと顔を輝かせた。