きのうバンヤンツリーのクリニックに連れていってくれた中国人は、 うさぎの顔を見るたびに「足は大丈夫か」と聞く。 足のキズは心配されるほどではないが、顔を覚えていてくれるのが嬉しい。
アラマンダは決して小さなホテルではない。客室の数が100はある大きなホテルだ。 だが、中国人に限らず、スタッフたちはみなうさぎの顔を覚えてくれているようだ。
ヨーロピアンや日本人のハネムーナーが多い他のホテルとは違い、ここは日本以外のアジア系のお客が多い。
が、その人たちはなぜか朝夕しかホテルにいない。
この素晴らしいラグナエリアを出て、毎日わざわざどこかに観光に行ってしまうのだ。
例のハデな「中華観光」の大型バスで。
日がな一日中エリア内でウロウロしているうさぎのような客の数は知れたもので、
それでスタッフも顔を覚えてくれるのだろう。
ラウンジにアラマンダグッズを展示してあるウィンドウがあったので、
「ここに飾ってあるものは、どこで手に入れるの?」とスタッフに聞くと、
「ブティックで売っている」という。
うさぎはアラマンダの全景が写った絵はがきが欲しかったので、店に足を運んだが、売り切れだった。
店のお姉さんが
「フロントにはまだあるかもしれないから聞いてごらん」と言うのでフロントに戻り、
「あれが欲しい」と言うと、中国人が現れた。
「絵はがきなら部屋に置いてありますよ」と彼は言った。
確かに、部屋の机の引出しには絵はがきが4枚ほど入っていた。けれど絵柄が違う。
ここに展示してある絵柄ではないのだ。うさぎは絵葉書を指差し、力を込めて言った。
"But I wanna THAAAAAT ONE!" (私が欲しいのは、アレなの!)
すると、
「一人につきハガキは一枚づつ (部屋にある分) しか差し上げないのが我々のポリシーだが」
と中国人は前置きして言った。
「あなたには"特別に"差し上げます」と。
そして部下にポストカードの箱のカギを開けて出すよう指示すると行ってしまった。
ところが、ポストカード入れの中にもこの絵はがきはなかった。
ウィンドウにディスプレイしてあるのが最後の一枚らしい。
〔結局ダメか〜〕とうさぎはがっかりしたが、夜にまたブティック付近をウロウロしていたら、
また中国人が現れ、おもむろにカギを取り出すと、ウィンドウを開けて念願の絵はがきを取ってきてくれた。
うさぎは感激して、
「ありがとう! あなたって、なんて親切なのかしら!」と英語で言った。
本当は内心、うさぎは気づいていた。 彼の行動は、本当は「親切」なんて言葉で語り尽くせるものじゃあないってことに。 ウィンドウのカギを取り出した時の彼の勿体ぶった素振りや、絵はがきを渡してくれた時の恩ウリウリな様子。 それが華僑の商魂でなくてなんだろう。うさぎは数少ない貴重な日本人観光客。 そのうさぎに10バーツの絵はがき一枚で恩が売れるなら、こんなに安い投資はない。
けれど。うさぎが念願の絵葉書を手に入れられたかどうかを、この人はずっと気にしていてくれた。 うさぎはそれが嬉しかった。