未明。ネネがぐずぐずと泣く声が聞こえた。
「どうしたの?」と声を掛けると、
「頭が痛い」。
慌てて額に手を当ててみると、熱い。38度、39度ありそうだ。あわてて日本から持ってきた解熱用の座薬を入れた。
するとその途端、ネネはすーっと眠ってしまった。
これから病気のネネを連れて、一日かけて日本に帰るのかと思うと、うさぎは憂鬱だった。
昨日は朝の9時から夕方の5時まで、プールにずっと浸かりっきりだった。
幼いチャアのことはまだ少し気を付けていたのだが、ネネの体力は過信して、あまり注意を払わなかった。
それでこの顛末となったのだろう。
でもまだこれが最終日でよかった。後顧の憂いなく、めいっぱい遊べたもんね。
プーケット空港に着くと、エアコンが入っているのか、夏服では肌寒い感じだった。
これから冬の日本に帰るのだし、飛行機の中も涼しいだろう。
そう思って、ネネとチャアにタイツをはかせることにした。
空港のロビーのソファにおとなしく座っていたネネは、
「着替えるよ」と言うと、
「あたし、こんなところで服脱ぐの、イヤだからね」。
その一言に、うさぎは感銘を覚えた。この人はもうすでに一人前のレディなのだ。
こんなに高い熱を出しているのに羞恥心を忘れないなんて、
破れかぶれなうさぎの娘らしからぬ振る舞いじゃあないか。
うさぎはレジャーシートを婦人用のトイレの床に敷いて、その上で子供たちを着替えさせた。
無用の荷物かと思ったレジャーシートが、最後の最後で役に立った。