予定に遅れること10分、ミネアポリスの空港を出ると、中年の女性がうさぎに抱きついてきた。
びっくりしてその女性をよく見ると、
それは28年前の面影を縦に縮めて横に伸ばしたメアリーだった。
「なぜわたしが分かったの?! 日本人なら他にたくさんいるのに!」と驚くうさぎに、メアリーは言った。
「分かるわよ! だって全然変わってないもの!」
変わっていないって?! 信じられない!
だってわたしがミネソタに来たのは中学生のとき。
あれからもう28年も経っているのよ!
当時メアリーは結婚したばかりの若いレディだった。 うさぎは彼女のことを、「メアリーおばさん」だと思っていたものだ。 14歳の少女にとって、自分より10も年上の結婚している女性はみな「おばさん」で、 子供の自分に対し、彼女ははるか歳の離れた大人の人だと思っていた。
ところがどうだろう。 自分も大人になった今、メアリーは「はるか年上のおばさん」ではなく、 「姉」のような、「同輩」に近い存在になっていた。 それはここ数ヶ月、メールをやりとりするうちに気づいたことだ。 今やどちらも娘を2人持つ母親同士。 10歳違いなのは今も昔も変わらないが、いつの間にか歳の差が縮まっている、と。
縮まったのは年の差だけじゃなかった。 なんだかメアリーは背が縮んだみたいだ。 ――そう思って気がついた。 そうじゃない。うさぎが伸びたのだ。
メアリーの後ろには、メアリーと、ご主人のシドを足して2で割ったような 背の高い若い娘が2人いて、「ハーイ」と言いながらニコニコした。 ああ、これが28年前のメアリーだ。
うさぎのほうも、28年前の自分をメアリーとシドに紹介した。
15歳のネネと12歳のチャアはおずおずと戸惑いながら、それでも何とか皆に挨拶をした。
「彼女たちは英語がどれくらいできるの?」とメアリーが尋ねるので、
「ほとんどできないわ。
だから、あなたがたにとっちゃ、絵が上達するチャンスってわけ」
と言うと、メアリーは大笑いしてうさぎの脇をつついた。
――あれ、よく笑うな、とうさぎは思った。