Minnesota  ホストマザーに会いに

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【 命がけのドライブ 】

パーキンズ

ここ10数年ほど、きりんはペーパードライバーだった。 しかもオートマ車未経験、左ハンドルも生まれて初めて、という状態。 運転席に座った彼は、「あれ、アクセルはどっちだっけ」と言ってうさぎを大いに不安がらせた。

「メアリーに運転してもらおうか」と言ってみたが、いや、なんとかやってみるというので、 子供たちをシドの車で連れて行ってもらったのはつくづく正解だったと、うさぎは思った。 命を賭すハメになったメアリーには全く申し訳ないばかりである。

きりんの車は、そろりそろりと立体駐車場のスロープを降りた。 まるで教習車。 助手席に座ったメアリーが教習所の教官のように、 「ゆっくりゆっくり〜。そこでストップ。ハイその調子」などと指導を入れている。 いつも饒舌なうさぎは、きりんの気を少しでも散らしてはならないと、 後部座席で身を縮めながら、意識して押し黙っていた。

駐車場から出たそこは、いきなり幹線道路であった。
「アメリカのハイウェイは広いし、対向車もろくに走っていないから日本から比べたらずっとラクよ」 とここへ来る前よくきりんに言っていたものだが、 実際にはどうもそんな感じではない。 日本の幹線道路と比べてさして広くもない道を、車が次から次へとびゅんびゅん走ってゆく。 狭くてゴチャゴチャした日本の道路と比べ、アメリカの道路は広くて空いている‥という28年前の印象はどこへやら、 メールでもらった「ミネソタのドライバーは運転が荒いから気をつけて」というメアリーのアドバイスが頭によみがえる。 ここは国際空港と大都市ミネアポリスを結ぶ幹線道路。 ああ、ここを乗り切りさえすれば‥。

「左の車線を走ったほうがいいわ。ああ、次の交差点を左へ」 メアリーのナビは英語だ。 彼女の英語は聞き取りやすく、努めて丁寧には発音してくれてはいるが、 彼にとってはついさっき生まれて初めて会ったばかりのアメリカ人の英語だ。 英語と運転、一つだって大変な難業が一度に二つ。しかも慣れない左ハンドル‥。

ゴメン、本当にゴメン。
こんな難業に立ち向かわせて‥。

うさぎは身を硬くしながら、心の中できりんに何度も謝った。 ホストマザーに会いたいのはうさぎのほうなのに、ミネソタに来たがったのはうさぎのほうなのに、 自分は何もできない。 唯一できることといったら、おしゃべりな口を黙らせておくことだけだ。

それでも幸いだったのは、このドライブがさほど長くなかったことだ。 メアリーが空港から近く、行きやすいレストランを選んでくれたからに他ならない。 レストランの駐車場にきりんが無事車を入れたとき、 うさぎは心底ホッとして、それまでピンと張っていた背中の緊張を緩め、 車の背もたれに身を委ねる気にやっとなった。そしてつくづく思った。

ありがとう、あなた。
このご恩は一生忘れない!

と。

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