シドや子供たちと合流したレストランは「パーキンズ」という名の店だった。
「ここはわたしたちのお気に入りなのよ」とメアリーは言った。
このセリフは28年前にも聞いたことがある。
ホストファミリーに引き取られてすぐに連れて行かれた店の前で、
ダッドが同じセリフを言ったものだった。
「ここはわたしたちがとても気に入っている店だよ」と。
その一月後、ホストファミリーと分かれる前、最後に立ち寄ったのもその店だった。
外観からして、その店がどんな店だかはだいたい察しがついた。 赤白ストライプの日よけを見れば。 28年前は驚いたが、今回は驚かないぞ。
中に入るとやっぱり。うさぎのカンは当たっていた。 小さいものから大きいものまで、星条旗がいたるところに飾られている。 28年前の店もこんな感じだった。 アメリカを称えながら食事をする店。 うさぎはそこで、スターズ&ストライプス模様の大きなプラスチックハットをもらったものだ。
シドや子供たちの待つテーブル席に着きながら、 うさぎはこれが日本だったらどうだろうと想像してみた。 日の丸だらけの店があったりなんかしたら‥。 そんなところで落ち着いて食事ができるだろうか。 なぜだかバックミュージックは軍歌以外想像できない。 そんな店に外国から来た友人を「ここが私たちのお気に入りの店よ」と言って案内できるだろうか。 いや、できない。真珠湾攻撃を思い出しそうだ。
28年前に行った店と違っていたのは、ここが古き良き時代のアメリカを偲ばせる、懐古調の店だったことだ。 暖かい色の壁、古典派の絵画。 ちょっと東部寄りの大きくも小さくもない街で、 100年前、着飾った人々が記念日に足を運んだレストランはこんな感じではなかったか。 うさぎはすっかりウキウキして、ぐるりと自分の周りを見回すと、 「ファンタスティック! 写真を撮ってもいい?」とウェイトレスに声をかけた。 彼女はちょっと肩をすくめ、「ワイナッ(もちろん)」と軽い調子で言った。 アハハ、カジュアルな感じのウェイトレス、カメラを持った日本人。 ここはやっぱり100年前のレストランじゃなく、現代のファミレスだ。
◆◆◆
店を出るとき、高いポールに掲げられた星条旗が半旗になっているのに気づいた。 毎日毎日、いろんなところで半旗を目にするうち、うさぎは気づくことになる。 これは弔意であることに。
メアリーがのちに「これは英語では"ハーフマスト"と呼ぶのよ」と教えてくれた。
「それはレーガン大統領が死んだから?」と尋ねると、そうだと言う。
「クリントン大統領の新しい本のせいではないわけね」とからかうと、
メアリーは「馬鹿ねえ」といいながらコロコロ笑った。
彼女は本当によく笑う。