「昼食はまだね? ならばわたしのお気に入りのお店に行きましょう。
その店の名前はね、"ウードーズ"っていうの」マムが可笑しそうに笑いながら言った。
「ウードーズ、この名前を口に出すたびに可笑しくなるわ。ウードーズ」何度も発音してマムは笑った。
「ウードーズ?」うさぎも発音してみたが、一体何がそんなに可笑しいのか分からない。
「そう、ウードーズ」でもマムはまた言って笑った。
まるで唱えると幸せになる呪文みたいだ。
行ってみると、そこはヌードルの店だった。 店の名は、"Noodle"の最初のNをとって"Oodles"。 "oodle"という単語には「たくさんの」という意味があるから、 "Oodles of Noodles"なら、「たくさんのうどん」。 なるほど、気の利いたネーミングだ。
あまりお腹が空いてはいなかったのでスープを注文すると、 カップにナミナミと注がれたのがやってきた。 あんまりカップの縁いっぱいいっぱいまで注いであるものだから、 給仕の女性がテーブルに置いた拍子にソーサーにこぼれ出てしまったほどだ。 うさぎはスープをスプーンですくって飲み、少し減らしてからそこにクラッカーを割り入れた。 スープやチャウダーには添えられたクラッカーを割りいれて食べるのが、アメリカ流。 大草原の少女ローラの時代からそうだったし、昨晩のパーキンズでもそうだった。
◆◆◆
食事を終えて老人ホームのマムの部屋に戻ると、なんだかものすごく眠くなってきた。 みんなでピアノを弾いたり歌ったりしているうちはまだよかったのだが、 それを終えてふう、と一息ついたら、あららら、こいつはいけない。 頭がぼんやりしてきて、マムの英語がだんだん聞き取れなくなってきた。 子どもたちの目もとろんとしている。 昨晩はちゃんと眠ったはずなのに‥。
マムが子どもたちの様子に気づいて言った。
「ベッドで寝てらっしゃい」
子どもたちはこれ幸いと寝室へ行き、遠慮なくそこで眠ってしまった。
それからしばらくして、 「キリン、あなたもそのソファで寝て構いませんよ」とマムは言った。 それできりんもソファに長々と横たわり、眠ってしまった。
揺りイスに揺られているマムとうさぎはそれからしばらく話をしていたが、
うさぎのまぶたもどんどん重くなってきた。
マムが言った。
「ウサギ、あなたもそこで寝なさい」
「いえ、わたしは大丈夫‥」と言いつつ、ちっとも大丈夫ではなかった。
頭の中はもう真っ白、全然頭が働かない。
ふかふかカーペットの床が呼んでいる‥。
もうダメだと思った瞬間、 「やっぱり眠ることにする」とうさぎはマムに宣言し、床に伸びて寝てしまった。 ああ、丸一日かけて太平洋を越えて会いにきたマムの前で、 積もり積もった話もろくにせず、眠ってしまうとは。 マムが揺らす揺り椅子のギシギシいう音を子守唄に、うさぎの意識は急速に遠のいていった。