モールオブアメリカへ行こうとして、なぜかマムの家に辿りついてしまったうさぎたち。 こういうオチを迎えた今、いまさらモールオブアメリカに行こうとは誰も言い出さなかった。
親たちが迷子騒動でパニックしている間、
子どもたちは車の後部座席でうとうとしてらしい。
「迷子になったことに気づいていた?」とうさぎが尋ねると、
「ああやっぱり。なんとなくそうかなーとは思っていた」のですと。
「アンタたちは気楽でいいわね」と、うさぎは
きりんに言われた言葉をそっくりそのまま子どもたちに向かって復唱した。
予定より2時間も早くマムの家に到着してしまったので、 とにかく時間を潰そうと、その辺をぶらぶらしていると、おおっ? マクドナルドがあるではないか! 諸外国におけるマクドナルド見学はうさぎの趣味である。 しかもここは、マクドナルドの本場、アメリカだ。 こんなチャンスを逃す手はない。 早速、本場のマック見学と洒落こむことにした。
「まあ、変わったものは何もないと思うけど」 過度な期待を抱かぬよう、うさぎは何度も自分にそう言い聞かせながら黄色いMのマークに近づいた。 「本場」ということは、「スタンダード」ということなのだから。
ところが。 店に入るなり、珍しいものを見つけた!
それは、レストランなどによくあるドリンクバーであった。 みんなそこにプラスチックのカップを当てて、自由に好きな飲み物を注いでいる‥! 以前グアムで、コーヒーのおかわりをもらっている人を目撃して仰天したことがあるが、 本土ではおかわりどころか飲み物がタダ?! ――そんなバカな!
‥と思ったらやっぱり、そんなバカなことはなかった。 ただ、おかわり自由の定額制なのだ。 レストランのドリンクバーと同じ。 少なく払うと小さなカップ、たくさん支払うと大きなカップがもらえ、 それに好きな飲み物をお好みで、何度でも注いで飲んでいい。
‥だったら、小さなカップのほうがお得じゃあないかって――?
まったくその通り! 小さなカップのほうがおトクなのだった。 何度もおかわりしにいけば、カップが小さかろうと、大きなカップで飲むのと同じだけ飲めるのだから。
尤も、カップが大きかろうが小さかろうが、金額のほうも大して変わらない。 Sが99セント、Mが1ドル、Lが1ドル39セントと、 SとMとで違うのは、なんとたった1セントだ。
うさぎたちは店内を見回し、皆がどれくらいの大きさのカップを手にしているか、リサーチした。 ‥どうも、ほとんどの人は同じ大きさのカップを手にしている。 あれはたぶん‥M? 他の人のより明らかにばかでかいカップを手にしている人もいるから、Lでないことだけは確かだ。
そこでうさぎたちもこのフリードリンクを試してみることにした。 SかMかで迷ったが、カウンターで順番が回ってきたら、反射的に「Mをください」と言ってしまった。 飲み物だけしか買わない上にもってきて、「Sサイズを一つください」と言うのがなんだか恥ずかしかったのだ。
それで手にしたカップは、皆のと同じ大きさのカップだった。 そうか、やはりここでの売れ筋はMだったのだ。 ミネソタの人々が1セントにこだわらないことがこれで判明した。 でも39セントにはこだわることも。
ではここで一句。
売れ筋は やっぱり真ん中 Mの店
それにしても、アメリカで飲み物というと、どれもこれも炭酸入りなのはなぜだろう? ソフトドリンクが8種類から選べるのは結構だが、炭酸が入っていないのが一つもない。 炭酸が苦手なうさぎたちは、おかわりどころか、Mサイズのカップ一杯4人で飲み干すのもやっとだった。
しかし、1ドルの飲み物を一家で分け合って飲むうさぎたちって一体‥。 そんな日本人一家の姿をアメリカの人々が「うるわしき家族愛」と受け取ったかどうか、 それはうさぎの知るところではない。