7月23日のつづき
3週間ぶりの病院は、まず血液検査から始まりました。
前にも書きましたが、うさぎって採血、大ッキライ!
体に針を差されるかと思うと怖くて怖くて‥。
なので今回も、恒例のセリフを吐きました。
「すごくすご〜く痛がりなので、どうぞ、よろしくお願いいたします!」
ってね。
人生の酸いも甘いも噛み分けたような年配の看護婦さんは、
優しくこう言ってくださいました。
「ええ、そうよね、こういうのって本当にイヤですよね、怖いわよね。分かるわ‥」
‥ああ嬉しいなあ、こういう対応!
しかも実際には、ほんの数秒、ギュッと目をつぶっていただけで、
ほんのちょぴっとチクンとしただけで、採血は終わりました。
「ありがとうございました! ほとんど痛くありませんでした!」とうさぎがお礼を言うと、
看護婦さんは「まあ、それはよかったわ」とニッコリしました。
◆◆◆
さあて、採血が終わったら、いよいよ診察です。ワクワク♪
待合室で待っていると、「うさぎさ〜ん♪」とドクター・ハンサムが診察室から
顔を出しました。
そう、今日は絶対、語尾に「♪」がついていたと思うわ。
もしや彼も「マダム・ウェンズディ」に会うのが楽しみになってきたとか〜??
‥いい傾向だわ。
「よろしくお願いします」と挨拶して椅子に腰掛けると、
もう先ほどの採血の結果が届いていました。
「これがエクスプレスの採血結果です」とドクター。
「前回よりも悪くなっていますね」
「ああ、そうかもしれません。実は増血剤をほとんど飲んでおりませんので」とうさぎ。
すると、
「‥それはまた、どういうわけでっ?」
ドクターは大きな声を出しました。
その声にちょっとビビるうさぎ。
落ち着け、落ち着け、ここまでの展開はすでに折込み済みのはずよ――。
うさぎは、一度大きく息を吸ってから、ここ3週間の身の上話をはじめました。
「実は、最初に増血剤を飲んだとき、気分が悪くなってしまったのです。
それで飲むのが怖くなってしまい、しばらく飲みませんでした。
でも、一週間経って、"あれはたまたまだったのかも〜?"と思いなおして、
また飲みました」
「ところが、今度は下痢になってしまい‥、飲むのが怖くなってしまいました。 それでまたしばらく飲まなかったんですけれど、でもまた一週間くらいして、 こんなことではいけないと思いまして、また飲みました」
「ところが、今度は腹痛が起きてしまいまして‥」
ドクターハンサムが、もの言いたげにこちらを見ました。
うさぎは慌てて付け加えました。
「あっ、実は4回目は何ともなかったんです。
だから、偶然かなー、とも思うんですけれど‥」
‥本当言うと、4回目に何ともなかったのは、
またロクでもない目に遭わないうちに寝てしまうことにしたからなのだけれど。
ドクターは小さくタメイキをつき、こうおっしゃいました。
「まあ、増血剤は人によってはいろんな症状がでることもあるんです。
ですから、量を調整するなど、それぞれ工夫して飲み続けることが必要なんですね。
‥どうでしょう、ここは一回2錠のところを、1錠にしてみるというのは」
「はあ。そうですね‥。
ところで、別のお薬に変えていただく、というわけにはまいりませんかしらね?」
とうさぎ。
「まあ、増血剤と一口に言っても、いくつか種類はありますよ。
子供向けのシロップとか」とドクター。そういいながら、目をキラッとさせました。
あら、これはうさぎをからかっているんだわ。
「いえ、べつにシロップである必要はありませんが」とうさぎは笑いました。
口元をこころもちほころばせながら、ドクターは答えました。
「そうですか、なら他はどれも対して変わりはありませんよ。
この薬は吸収がいいので、やっぱりこれが良いと思いますよ」
そうおっしゃいながら、
医学用語集だか何だか赤い表紙のハンドブックを手でもてあそんでいるのは
なぜなのかしら〜?
もしかして、どうしてもこれではダメとなったら、他にも手だてがあるのかもしれないわね。
「とにかく、薬はまだだいぶ残っている、と」とドクター。
「はい、2週間分は少なくとも残っています」とうさぎ。
「では、この先4週間分の薬があるわけだ」とドクター。
「え‥? 4週間分?」
「だって、これからは半分に減らして飲むわけだから」
「あーあ、そうですねえ〜!」
「そうすると、次の採血はだいたい一月後‥と」
ドクターはそうおっしゃいながら、血液検査の申請書に必要事項を書き始めました。
それをぼんやり見ているうちにうさぎ、いいこと思いついちゃった。
「すみません、もしかして、日に二回、1錠づつ飲むのではなく、
日に1回、2錠飲むのではダメでしょうか」
ドクターは申請書から顔を上げずにおっしゃいました。
「ああ? ‥構いませんよ‥」
‥よかった! それなら、夜だけ飲めばいいのだわ。 夜はすこしくらい気分が悪くなったって、お腹が痛くなったって、 あとはもう寝るだけだもの。
申請書を書き終えた頃合いを見計らって、うさぎは申しました。
「あの、ところで、ピロリ菌の再検査の方は‥?」
「あーあ、5月、6、7、8月‥。
除菌してからだいぶ経ちましたから、9月になったらやってもいいですね。
じゃあ9月の10日、水曜日でいかがでしょう?」
「‥分かりました。予定を空けておきます」ともったいぶってうさぎは申しました。
本当はうさぎの予定なんてガラ空きなんだけれど。
今度はピロリ菌検査の申請書を書き始めたドクターに、うさぎはまた質問しました。
相手は医学の専門家なんだから、こういう機会にいろいろ教えていただかなくっちゃね。
「あのー、低血圧というのも、疲れやすさなどに関係してくるんでしょうか」
ドクターはちょっと手を休めて、説明してくださいました。
「いや、あまり関係ありませんよ。血圧が低くても元気な人はたくさんいます。
それにねえ、低い方が、長生きできますよ。
‥もし血圧を知りたければ、採血検査室の脇に血圧測定器が置いてありますから、
測って帰られてみては?」
◆◆◆
診察が終わると、うさぎは早速、自動血圧測定器のところに行きました。
でも、自分で測ったことってないから、どうやるのかよく分からない。
肘のあたりで測っていたら、側にいたおじいさんが、声をかけてくれました。
「ああ、もうちょっと上の方で測らにゃいけませんよ」と。
「そうそう、もっとグッと奥まで手を入れるんですよ!」と後ろのベンチから、
今度はおばあさん。
うさぎはその通りにやってみました。
「よし、その調子〜!」とおじいさん。
測定器には、「測っている間は、ゆっくり深呼吸をしていること」と書いてありました。 その通りにするうさぎ。 気付いたら、おじいさんが脇でうさぎと一緒に深呼吸していてくれました。
測定が終わってしばらくすると、べべ〜〜っと、結果の紙が吐き出されてきました。
最高血圧 83mmHg
最低血圧 54mmHg
脈拍数 75bpm
これってどうなのかしら、やっぱり低すぎるかしら。 病院に行くと"ゾンビ"扱いされるというエイミー何某よりは ちょっと高かったかもしれない。 ――そう思っていたら、おじいさんが脇から言いました。
「おお、これはこれは最高にすばらしいではないですか!」
「そうですか? これ、良い数値なんですか?」とうさぎ。
「ええ、最高ですとも! わたしらの半分ですよ。
血管がおきれいなんですな」とおじいさん。
そうかー、うさぎって"最高"なのね!
血管が"きれい"なのね!
ドクターにも「長生きできる」って言われたし、
「最高」だの「きれい」だなんていう褒め言葉は、血管や血圧のことにせよ、
そうそう人から言ってもらえるものではありません。
‥なので、今日はちょっぴり上機嫌なうさぎなのであります。