土曜の夕食は天ぷらでした。 きりんとチャアが材料を刻み、 うさぎは切らしていた天ぷら粉を買いに走りました。
ところが、スーパーのレジに天ぷら粉を差し出しポケットを探ったら、サイフがない! 上着のポケットに感じていた重みはサイフだと思ったら、なんとデジカメだったのです。 仕方がないので、天ぷら粉の代金はツケてもらいました。
家に戻ってくると、材料の用意はだいぶ進んでいました。
じゃがいも、さつまいも、肉、タマネギ、ニンジン‥。
でもちょっと物足りない気もする。
ナスやカボチャもあったらいいなあ、と思いました。それにウィンナなんかも。
きりんにそう言うと、「いいよ、今日はうちにあるものだけで」
「ううん、せっかくだから買いに行ってくるわ。
さっきのツケも忘れないうちに払ってしまいたいから」
そんなわけでうさぎは、スーパーにとって返し、 ナスとカボチャとウィンナを買い、さきほどの天ぷら粉の分もお金を払いました。
そして再び家に戻ると、いよいよ準備は佳境に入っていました。
掻き揚げ用のニンジンとタマネギがどっさり出来ている。
うさぎは天ぷら粉に水を加えて混ぜ合わせ、
テーブルの上に卓上鍋を出しました。
「ホントは串揚げにできるといいんだけど」ときりん。
「でも串なんてうちにないよね。
それにこの鍋の大きさじゃあ鍋の中に落ちちゃうから、まあいいか」
「あらっ、串ならあるわよ。しかも、バーベキュー用の長いのが。
これなら鍋の中に落ちないでしょ」うさぎは得意になってバーベキュー用の串を出しました。
「見たか、我が家の底力をっ!」
「おおっ、これはいいな! 雰囲気が出るね」
さあ、いよいよ揚げ物開始です。 鍋に油を張らないと。 うさぎは流しの下から油のボトルを出しました。
‥と思ったら、油を切らしていた‥!
「おっと、油がほとんどないわ」ほとんどカラのボトルを振るうさぎ。
「えっ。‥それは痛いな」ときりん。
「ハハ、"痛い"なんてもんじゃなく、油がなかったら串揚げって不可能かも」
‥そんなわけでうさぎはまた油を買いに走りました。
そんなこんなで、串揚げはできました。 天ぷら粉をつけては揚げ、つけては揚げました。 薄切りの豚肉やカマンベールチーズには、 天ぷら粉の上からパン粉をつけて、フライにしました。 肉は、外はカラッと中はふんわり柔らかく、 チーズは、外はパリパリ、中はトロトロで、とっても美味しくできました。
‥って、あっ、写真を撮るの、忘れた!!
◆◆◆
【 バリ旅行記7 リバービュー 】
カジュン通りやサレンアグン宮殿付近を歩き回っているうちに、おなかが空いてきた。 道を少し美術館のほうに戻り、さきほどから目をつけていた 「リバービュー」というオープンエアのレストランで食事をすることにした。
そこは深い渓谷を見下ろす、素朴な食事処だった。 そう。その素朴さ、その東洋的風情は、「レストラン」と呼ぶよりも、 「食事処」という言い方の方がぴったりくる。 一体どこまで続いているのやら分からない広い林のあちこちに たよりなげな柱の上に茅葺屋根をのせた粗末な東屋があり、 そこで食事をするのだ。
若い給仕が「さあ、お好きな場所へどうぞ」と愛想よく言った。 うさぎたちは一番見晴らしの良い東屋を選ぶと、 靴を脱いでゴザの敷かれた高床に上がりこみ、 ぺっちゃんこの座布団に腰を下ろした。 カバーのめくれたところからドラえもんか何かの絵柄が覗いている。 茅葺の屋根を見上げると、その天井裏に生白いちいさなヤモリが一匹張り付いていた。
その東屋は実に快適だった。 明るい緑に囲まれ、心地よい風が吹き抜けてゆく。 気温は高く、風は涼しく、暑くもなければ寒くもない。 東屋の広さは4人にとって狭くもなければ広すぎもしない。 粗末ではあったけれど、いや、粗末だからこそなのか、いごこちがよかった。 何の遠慮も何の礼儀もいらず、疲れたはだしの足をゴザの上に投げ出せた。
見下ろす渓谷はとても深かった。 なのに、そこに流れるのは、ほんの申し訳程度にちょろちょろと流れる小川。 渓谷の深さと小川の水量がえらくアンバランスだ。 そういえば、ホテルの部屋から見下ろす渓谷も、水量の割にやたらと深かった。 プリルキサン美術館で渡った渓谷も。
一体この渓谷の深さは何なのだと考えるうちに、 この地域にははっきりとした雨季と乾季があることに思い当たった。 今は乾季。きっと雨季にくれば、全く違った川の様子が見られるに違いない。 そう思ったら無性に雨季のバリを見てみたくなった。 乾季のバリにやってきてまだ2日目だというのに。
料理が運ばれてきた。 ちょっと昔懐かしい感じのするバラ模様の皿が、 下手な日曜大工で作ったような粗末なテーブルに並べられた。 シチュー、オムレツ、フライドポテト、固ヤキソバ、春巻き、 オニオンリングフライ、バナナの揚げ菓子。 4人が思い思いに選んで頼んだ料理は、 西洋風あり、中華ありと雑多で様々だった。 だけどそれらは一貫して、どれもどこか懐かしく、親しみ易い味だった。