飛行場から出ると、日本語が上手な金髪美人がうさぎたちを待ち受けていた。
彼女が運転する小さなバスでホテルへと向かう。
ほんの5分でバスがホテルに到着すると、お姉さんはガイドからフロント係に早変わり。
早速チェックインの手続きをしてくれた。
そして、
「二部屋のうち一部屋はもうルームサービスも終わっているので、どうぞお使いください」
とキーを渡してくれた。
更に、それから20〜30分ほどホテルのロビーで滞在の説明を聞いているうちに、
「もう一部屋も整いました」と、もう一つのキーも渡された。
これは意外だった。今はまだ朝の8時半。なのに、もう部屋に入れるの?!
日程表にも「部屋の使用は午後2時以降」と書いてあったから、
それまではどこかで時間を潰すしかないと諦めていた。
こんな朝早くから、お部屋を整えてくれたルームメイドさん、どうもありがとう!
◆◆◆
さて、渡されたキーを手にガラス張りのエレベータに乗り、着いた部屋は17階。
ここはイギリス流に地階があるので、日本でいえば18階だ。
エレベータホールから、ドアが規則的に並ぶ狭い廊下を出ると、
廊下の片側には、うさぎの胸あたりまでしか壁がなかった。
この素通しを、解放感と呼ぶか、恐怖と呼ぶかどうかは人それぞれ。
高所恐怖症のうさぎは、ドア側の壁にへばりつくように、廊下を歩いた。
さて、ようやく部屋の前に到着。ところが。
カギが開かない‥!!
ホテルの部屋のカギにてこずるのは毎度のことだけど、それにしても開かない。
皆でよってたかってガチャガチャやってみたけど、全く開く気配ナシ。
「なんかの手違いなんじゃないの〜?」と、これまた恒例のセリフを吐くうさぎ。
けれどきりんは、その言葉を無視してなおもカギと格闘を続け、 ついには見事にドアを開けた。 どうやらカギ穴にキーを差し込んだままドアを押すのがコツみたい。
う〜ん、ホントにカギって不思議。
「カギが違うんじゃないか」などと疑いを持っていると、金輪際開かないの。
「絶対に開くはず」と信じる者にしか開けられない。
すぐにカギを疑って努力を惜しむうさぎは、決してコロンブスにはなれないな〜。
玄関のドアが開くと、4人は部屋の中になだれ込んだ。
ところが。今度はコネクティングドアが開かない。
きりんはこれも部屋のカギで開けようとガチャガチャやっていたけれど、
うさぎはすぐに見限ってフロントに電話し、ドアを開けてくれるよう頼んだ。
だって、コネクティングドアが部屋のキーで開いたら、一部屋づつ切り離して使えない。
時には疑うことも必要よね。
こうして「確信派のきりん」と「懐疑的なうさぎ」が互いに補い合うからこそ、 きりうさ一家は安泰なわけだー。
さて。親たちがカギにかまけている間にも、ネネとチャアの二人はさっさと靴を脱ぎ、
靴下でタイルの床をスライディングして、ベッドの上にダイブした。
二部屋合わせて130平米もあるスペースは、子どもたちの格好の遊び場。
4つあるベッドはすべてクイーンサイズで、気分がおおらかになる。
「広々〜〜〜!」
ひんやりした白い大判タイルの床に、泳ぐように寝ころびながら、子どもたち。
調度が白木と籐で統一され、大きなベッドに黄色いベッドカバーのかかった部屋は明るく、 すがすがしい。 壁には陽気な色使いのリトがかけられ、 バルコニーに面する部分は、縦横ともに隅から隅まできっちり切り取られ、 大きなサッシがはまっている。
バルコニーの欄干には、頭に黄色い飾りを付けた真っ白なオウムが、
全面に広がる真っ青な海をバックにしてとまっている。
これをリゾートと呼ばずして、何と呼ぼう?
アジアのリゾートの繊細な美しさとはまた違った、おおらかでさわやかなリゾートらしさだ。
黄色いお魚模様のベッドカバーを剥ぎ、シーツの上に大の字になると、 うさぎは早速眠くなった。 機内で中途半端な夜を過ごした上、強い酔い止めが効いているので、 もう眠くて眠くて‥。
子供たちのはしゃぐ声がだんだん遠くになっていき、
「ママー、昼からホワイトヘブンビーチに行くよー」
というきりんの声に頷いたかどうかも定かでないまま、
うさぎはオーストラリアの空気につつまれて、しばしの眠りについた。