今夜も部屋で早い夕食。まだ5時半だけれど、夕食さえ食べてしまえば、いつでも眠れる。
日が短いので、外はもう暗い。
食事が済むときりんは眠ってしまい、うさぎは洗濯をしに行くことにした。
お爺さんが山に芝刈りに行かない日でも、お婆さんは川に洗濯に行かなくてはならない。
うさぎはスーパーの袋に山のような洗濯物を詰め込んでエレベータに乗った。
で、このエレベータのどこが良いって、とにかく高速なのが良い。時間を計ってみたら、
17階から地階へ降りるのに、なんとたったの20秒!!
ガラス張りなので、昼間は美しい景色が見えて楽しいし、 夜はエレベータの箱に巡らした電飾が点く。 エレベータのチェーンが外に剥き出しなのには、 錆びたりしないのかなと一抹の不安を感じるものの、構造が明快なのが面白い。 エレベータはホテルの外観のアクセントにもなっていて、 上下に三角の帽子をつけた箱がするすると登ったり下りたりするのを外から眺めるのも また一興だ。
2階の洗濯場に着くと、うさぎは洗濯機の中に山盛りの洗濯物と洗剤を入れてフタをしめ、 3ドル分のコインをセットした。 この洗濯機は英国製だけれど縦型ドラムで、見た目は日本の洗濯機と変わりがない。 ただ、真ん中にプラスチックの『絡まん棒』みたいなやつが立っている。
さて、洗濯機が首尾よく回り始めたのを確認すると、
うさぎは近くの売店を物色しに行くことにした。
で、1階へ階段で下りようと、洗濯場脇の非常階段用の扉を開けると――。
そこはとてもマイナーな雰囲気であった。
コンクリート打ちっぱなしで、妙にひんやりジメジメ。
うさぎの前にはいつ誰が使ったかな、という感じ。
このマイナーさ加減では、死体の一つも転がっていそう(?!)である。
それでも勇気を奮い起こして、気分的にとても長い階段を降りてゆくと、 ホテルの裏手に出た。 ベッドリネンなどの洗濯室など、雑然とした裏方部屋が並んでいる。 どこからか、ガチャガチャと作業をする音も聞こえてくる。
ああ、表と裏。堂々たる表玄関、非の打ち所なく設えられたロビー、美しいエレベータ。 それとは対照的な無機的な階段や、雑然とした作業場。 ゲストにとって、ここは非日常的な夢の楽園だけれど、 働く人々にとって、ここは現実的な日常生活の場なのだ。
表に回り、ホテル近くの免税店へ。
ここには、夢と日常の狭間にいる人がいた。
ワーキング・ホリデー中の若い日本人の女性店員。
彼らはゲストを迎える側でありながら、同時に彼ら自身がゲストであるとも言える。
彼らにとって一年間のオーストラリア生活は、夢の実現であり、
またその反面、日常でもある。
もっとも、
こんな夢の楽園に来てまで洗濯に追われるうさぎも、夢と日常の狭間の住民かなー?
店々を物色したり部屋で雑事をしたりしている間に一時間が経ち、洗濯室へ戻ってみると、
洗濯は終わっていた。
うさぎは、湿った洗濯物を部屋に持ち帰り、
日本から持ってきたロープをバスルームに張って洗濯物を干し始めた。
だが量が多く、とても干しきれない。しばらく考えて、乾燥機を使うことに決めた。
うさぎは洗濯室に戻り、洗濯物を横ドラム式の乾燥機に入れ、
これまたコインを3ドルセットした。モードは、強気で、最も強力なノーマルドライ。
不安もあったけれど、てっとり早く乾かして早く部屋で眠りたいという気持ちが勝った。
まあ、水着だけは抜いてあるし、
他は木綿の物ばかりだから、
大丈夫でしょ‥。
グアムでなかなか乾かなかったという先例があったので あまり乾燥機の性能に期待していなかったのだが、部屋で待機し、 一時間後に洗濯室へ行ってみると、洗濯物はどれもふんわりといい具合に乾いていた。 うさぎは感激し、それらを部屋に持ち帰った。
ところが。洗濯物を畳む段になって、ショック!!
今回初めて下ろした子供たちのニットのタンクトップが見事に縮んでいる〜〜!!
高かったのにー!!
あわてて洗濯表示を見ると、
あちゃー、
「タンブラー乾燥は避けて下さい」と書いてある‥。
試しに他の服の洗濯表示も見てみると、殆どのTシャツに同じことが書いてあった。 幸い、他の服には目立った変化は見られないけれど。
あーもう、もっと気をつけるべきだった。
でもこれじゃあ、乾燥機に適する洗濯物っていったら、タオルくらいしかない。
あとの洗濯物は、一体どうやって乾かせばよかったんだろう?
まあとにかく、縮んでしまったものは仕方がない。
くよくよせずにお風呂にはいって寝よう‥。
うさぎはバスタブに湯を張りはじめた。
ここのお風呂は、湯が熱くなるまでに時間がかかるが、一度熱くなればずっと熱い湯が出る。 湯船に湯が十分に溜まるのが待ちきれず、うさぎは幾分湯の少ないアワ風呂に浸かった。
ここのバスタブはなかなか快適。長さは160センチ位、幅も広め。 頭があたる部分が気持ち窪んでおり、 頭からお尻までの背中のラインに沿うようななだらかな形になっている。 深さも深いが、この深さの半分も湯を張れば充分浸かれる。 おそらく、湯を張りすぎてバスルームを水浸しにする危険を避けるために 深めに作ってあるのだろう。
大きなバスタブだが、湯を張る時間はさほどかからない。 なぜなら、底の方は幅が狭くなっているからだ。 上の方は幅が広いので、肘がバスタブにぶつかって狭苦しい思いをすることもない。 こういうのを『人間工学』っていうんだな。
それはそうと、蛇口からほとばしり出るこの豊かな水は一体どこから来るのだろう。 この島の人口は、約1000人の生活者と最大2000人のゲスト。 3000人分の生活用水を、この小さな島のどこから得るのだろう。 まさか本土から運んではこれまいし。こんな小さな島にも地下水脈があるのだろうか。 それとも、どこかに貯水池があって、雨水を溜めているのだろうか。
――リゾートにやってきても、洗濯を怠らず、 そういうことばかり考えてしまううさぎには、立派なエントランスは似合わない。