「ママ、そろそろ起きないかい?」
きりんの声で目を覚ますと、もう夕方の5時半だった。2時間半も眠っていたらしい。
5時半という時刻は、レストランに予約を入れた時間だ。
さっき市内を散策した際、目当ての店の前を通りかかったので、
予約をいれておいたのだ。
店の前には写真入りのメニューと予約受付用のポストがあり、
備付けのメモ用紙に名前とホテルの部屋番号と人数それに予約時刻を書き入れ、
ポストに入れると予約完了。英語で電話予約するよりもずっと気がラクだ。
レストランの名は『ダンディーズ』。その名の由来は『クロコダイル・ダンディ』だろうか。 ワニなど、オーストラリアならではの珍しい肉を食べさせるので有名な店である。
あわてて支度をして店へ急ぐと、『ダンディーズ』はまだ店を開けたばかりで、
うさぎたちが一番乗りであった。
店に入ると、ワーキングホリデー中とおぼしき日本人の若いウェイトレスが
うさぎたちを窓際の席に案内し、日本語のメニューを持ってきてくれた。
けれどそれに載っていたのは数種類のコースメニューだけ。
ミールクーポンで食べるような豪華なやつだ。
うさぎたちはそんなに量は食べられないし、第一、高くついてしまう。
「アラカルトメニューはありませんか」と尋ねると、
「英語でよろしければ」と普通のメニューをもってきてくれた。
うさぎたちはTボーンステーキと、
日替わりスープやシェフのおすすめサラダ、パン、
それに『オーストラリアン・フェア』などを頼んだ。
『オーストラリアン・フェア』というのは、オーストラリアならではの肉 ――ワニ、エミュー、カンガルー、バッファロー、バラマンディ――の盛り合わせである。 これでワニの肉を食べた人には、『ワニの肉を食べました』という証明書までくれる。 そもそもこれが食べてみたくて、このレストランにやってきたのだ。
まず最初に運ばれて来たのはパンであった。 小さなまな板の上に載ったオートミール入りの丸いパン。 それに3種類のバターが添えられている。温かくて皮がパリパリしているのが嬉しい。 スープやサラダも量、味と共に満足がいくもので、 中華風ピリカラソース、ケチャップ状の甘ピリ辛ソースの二種類が添えられた オージービーフのTボーンステーキも、きりんが大喜びで食べた。
さて、『オーストラリアン・フェア』に関して言えば。
最もクセがあったのは、意外にもエミューのソーセージ。独特の臭みがあった。
だがそれ以外はごく当たり前の味であった。
串に刺したカンガルー肉は見た目も味も「硬めの牛肉」だったし、
バッファローのステーキはさながら柔らかい牛肉で、とてもおいしかった。
『証明書』が貰えるワニ肉は、何しろ爬虫類だし、おっかなびっくり食べたけれど、
あっさりとした味で、どうってことはなかった。
見た目も白っぽくて鶏肉のような感じ。
ワニだと言われなければ、気づかなかったかもしれない。
結局、「一つや二つどうしても食べられない肉があるかもしれない」と思った予想は外れ、 臭みのあるエミューのソーセージも含めてきれいに平らげてしまった。 肉も悪くはなかったが、バラマンディにかかったアメリケーヌソースと、 ステーキにかかったグレイビーがこれまた秀逸で、 パンにつけたり付け合わせのポテトと和えたりして、すっかり平らげた。
チャアは最初、
「カンガルーの肉はいらない。だって可哀相なんだもん」と言っていたけれど、
「どうせもう肉になっちゃってるんだから、食べたら」とうさぎが言うと、素直に食べた。
うさぎたちが食事をしているうちに、次第に店は混みはじめた。
ハミルトン島から一緒に飛んできたOLさんたちもやってきた。
「なんか、あの人たち、どこへ行ってもいるよねー」とネネ。
きっと向こうもそう思っているに違いない。
ともあれ、ダンディーズでの食事は、満足のうちに終わった。
変わった肉を食べてみたい一心でここにやってきたが、
好奇心を満足させてくれただけにとどまらず、どの料理も大事に作ってあって美味しかった。
うさぎたちはレジで支払いを済ませると、
『ワニの肉を食べました』
という証明書を4人分書いてもらい、ホテルへと引き上げた。