夜、子供たちが自分たちの部屋で眠ってしまうと、 きりんとうさぎも、もう一方の寝室のベッドに横になり、 部屋の天井近くに据えつけられているテレビをつけた。
リモコンでスイッチを入れると、ちょうどSF映画が始まったところだった。 コマーシャルがやけに頻繁で、ケアンズ付近の小売店の宣伝がたくさん入っている。 価格を「幾ら幾ら!!」とはっきり打ち出したものが多く、 車のコマーシャルでさえイメージ広告でない。 率直な国だなあ‥、とうさぎは可笑しくなった。
テレビを見おわると、きりんとうさぎはベランダに出て月を探した。今夜は月食だ。
今世紀最後の皆既月食!
(当たり前だ、あと数カ月で今世紀が終わるんだから)
旅行会社のラウンジでもらったチラシによれば、 どっかのビーチで飲み物を飲みながら月食を眺めるツアーが大人25ドル、子供10ドル。 ホテルのベランダのリゾートチェアで紅茶を飲みながら、 ついでに洗濯機や乾燥機を回しながら、タダで月食を拝むのがきりんとうさぎ流だ。
月はちょうど欠けていくところだった。
といっても、ずっと眺めていて変化が分かるものでもない。
うさぎたちは、テレビを見たり雑用をしたりしながら、時々ベランダに出て、
食べかけのおせんべみたいな月を拝んだ。
いよいよ皆既月食が達成されてしまうと、新月みたいになるかと思いきや、 おぼろ月のようになった。 月食が今世紀最後であることにさして感慨はなかったが、 この旅も明日で終わりだと思いながら見上げる月には、なんともいえない風情があった。