島内散策は20分ほどで終わり、ケアンズへ戻る船の出航時間も近づいた。
うさぎは桟橋へと戻ろうと思ったが、その前にどうしても欲しいものがあった。
もちろんそれは、砂!!
島内散策であれほど自然保護の話を聞いたのに。‥ごめんなさーい!!
けれども、この島の砂を持って帰るという行為は、
自然保護の倫理に反するだけではなかった。
なんと、オーストラリアの法律に抵触する可能性があるのだった。
「この島の動植物およびその遺体・残骸などの天然物は、持って帰ってはならない」
と行きの船の船内放送で聞いた。
「持ち帰った者は、オーストラリアの法律により、処罰されます」ときたもんだ。
生きている動植物はともかく、遺体・残骸もダメとはこれいかに?と思ったが、
これはおそらくサンゴのことを気にしているのだろう。
ここの砂は粒子が大きめで、比重がやけに軽い。
どこか砂らしくない、パラパラとした感じである。
砂浜には貝殻や珊瑚のかけらが無数に落ちている。
してみると、この比重の軽い砂の正体も、貝や珊瑚の砕けたものかもしれない。
もし貝や珊瑚の砕けたものだとすると、「動物の遺体・残骸」の範疇に入ってしまう。
うさぎは、「砂もダメですか」と誰かに聞いてみようとも思った。
だけどあれだけ自然保護の話を聞いた後では聞くに聞けない。
それに「ダメです」といわれるのが怖い。ダメかなあ、ダメかなあ‥?
「欲しい」と思えば思うほど、ますます法律に触れるような気がしてくる。
砂を持ち帰ったことがバレるとしたら、どこかしら。
まさかケアンズで下船する時に身体検査なんて‥するわけないか。
日本に帰る時の、出国審査や税関は?
‥クスリやハジキじゃあるまいし、匂いもしなけりゃ金属でもないから大丈夫か。
第一、入国に比べて出国って審査が甘いし‥。
犯罪者の心持ちで、密輸の算段である。
けれど、実はそれは密輸以前の問題だった。ビーチを歩いて、砂を採集しようと思うが、
なんだか誰かしらがこっちを見ているような気がする‥!
人のいない場所を探してみたが、案外死角ってないものだ。
ああ、もうすぐ出航時間だ。そろそろ桟橋に戻らなければ。
切羽詰まったうさぎは、海に飛び込み、足とお尻をぬらした。 そうしておいて、砂の上にドスンと腰をおろした。うさぎの下半身は砂だらけになった。
自分のお尻にくっついた砂くらい、貰っちゃってもいいよね‥?
後ろを振り返ると、遠くで誰かがうさぎをじっと見ている‥ような気がした。
ああ、あたしってば、かなり怪しいヤツかも‥。
うさぎは大急ぎで船へと向かった。 途中で砂がパラパラと落ちてくるのを、わざと手提げの上ではたきながら。
出航時刻ギリギリに船へ戻ると、きりんと子供たちはまだ来ていなかった。
カウンターで人数を確認しているから置いていかれることはないだろうが、
お宝を持ってるうさぎとすれば、早く船に乗ってしまいたい。
うさぎがそっと手提げの中を覗くと、案の定、手提げの底は砂でざらざらしていた。
ホワイトヘブンビーチで手提げが砂だらけになった時には舌打ちしたものだが、
今のうさぎにとって、砂だらけの手提げはお宝だ。それを持つ手が、心なしか汗ばんでくる。
ああもう、お宝を持って、早くケアンズに帰りたいよー。
と、やっときりんたちがやってきた。よかった。船が島を離れれば、これでひとまず安心。 うさぎはホッとして船内に入った。
ふとまわりを見回すと、船内はガラガラだった。 行きと客の人数が違う。しかも日本人がほとんどいない。
一体あの大勢の日本人はどうしちゃったのだろう‥?
そういえばお昼あたりから、島でも日本人の姿をほとんど見かけなくなった気がする。 今だって、ビーチにいたのは西洋人ばかりだったし‥。
たぶん日本人の多くは、午前中をグリーン島で過ごし、 午後はアウターリーフへ行ったのだと思う。 でもうさぎたちはグリーン島だけで大満足。第一、
船酔いはする、シュノーケリングは苦手
じゃあ、アウターリーフへ行く意味もなかったに違いない。
ケアンズのホテルに帰り着いてうさぎがまずやったことといえば、 もちろん手提げの底の砂をかき集めてビニ−ル袋に入れることだった。 また、それだけでは物足りず、パーカーのポケットをひっくり返してみたり、 サンダルの裏に詰まった砂を掻きだしたりして一緒の袋にいれた。 こうしてあちこちからかき集めた砂は、何とかひとつまみくらいの量になったのであった。