Brunei  ブルネイ・ダルサラーム

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【 王宮参賀2 】

王宮中庭のハリラヤ飾り

軽く食事を終えると、中庭のまわりをぐるりと回って、 王族謁見の列に加わることにした。
中庭周りには、制服を着用した丸腰の誘導係員さんたちなら大勢いたけれど、 ここにもグルカ兵らしき人の姿は見当たらず、 うさぎはそれが却って不気味に感じられた。 だって、もしうさぎがテロリストだったら、こんなチャンスを逃すはずはないもの。 きっとどこかでなりをひそめながら、不穏な動きがないかどうか、 一人一人のお客をチェックしている兵士がいるに違いない。 ちょっとでも怪しい動作をしようものなら、突然スナイパーで狙い撃ちされたりして。 ハハ‥、ちょっと考えすぎ?

ぎっしりと椅子が並べられた広い待合室の入り口には険しい顔の男性が立っていて、 「カメラ・ビデオをバッグにしまいなさい」と威厳をもって命じた。 このお方はちょいとばかり他の人とは格が違いそう。 宮内庁のお役人さんといったところだろうか。
うさぎたちは彼に従い、おとなしくカメラ・ビデオをバッグにしまった。

さてここからは、撮影禁止となったばかりでなく、男女も別になった。 男性は王様をはじめとする男性の王族、 女性は2人の王妃さまをはじめとする女性の王族にしか会えないことになっているのだ。 なので古屋さんときりんは男性、あとの3人は女性の列に加わった。

王宮の門をくぐりぬけたときから なんとなく男性より女性の方が多いような気がしていたが、 整然と並べられた椅子に腰かけてみると、女性は男性の少なくとも倍はいることが分かった。 うさぎたちは1列が100席くらいある列の5列目くらいに座ったけれど、 ロープで隔てられた向こう側の男性用待合い椅子は、 2列目までしか埋まっていない。

30分くらい座って待っただろうか。 少しづつつ椅子の位置がずれてきて、ようやく待合いフロアから出ることができた。 古屋さんときりんはもうとっくにここから出て行ってしまっている。

だけど、「もうすぐ王妃さまに会える!」と期待したのもつかの間、 大変なのはここからだった。 真ん中に渡したロープで男子と女子に分けられた長い渡り廊下の ロープの向こう側の男子の列はどんどん前へと進むのに、 こちら側の女子の列はなかなか進まない。 狭いところにおびただしい数の女がひしめきあい、 おしくらまんじゅうしながらほんのちょっとづつ前へとずれていく感じだ。

しかも、うかうかしていると、後ろの人に追い越されてしまう。 並ぶ以外他に何もすることのないこの状態で皆が考えていることといえば、 スキあらば少しでも前へ前へと進もうということだけ。 ふと気づくと、さっきまでうさぎたちの後ろにいたはずの人が横にきて、 あれよあれよという間にずいぶん前の方へと進んでしまっていた。
通路の両側からは行儀良く並んだ扇風機が風を吹き付けてくれるけれど、 赤道直下の気温と、この人いきれの暑さはそんなものでは収まらない。 うさぎたち3人は、慣れない暑さで頭がボ〜ッっとしてしまい、 どうしても遅れをとってしまう。 汗で額に髪がはりついているチャアはすでにグロッキー状態。機嫌は最悪。

少しでも前へ進もうと、目をらんらんと輝かせ、 他人のスキを狙っている肝っ玉かあさんたちに手を引かれてついてゆく小さな女の子たちは みなネネとチャアのゆかたが気になる様子。 母親たちは、 ネネたちのゆかたを振り返っては足を止めてしまいがちの娘たちを叱り飛ばしながら、 我がちに前へ前へと突き進んでいった。

あるとき、視線を感じて後ろを振り返ると、 小さな姉妹がやはり、ネネとチャアのゆかたをしげしげと眺めていた。 その様子が可愛らしかったものだから、うさぎは英語で話し掛けた。
「これ、ユカタっていうの。夏のキモノなのよ」と言うと、 上品な雰囲気の母親が、「日本からいらしたの?」と尋ねた。
「ええそうです。あなたはブルネイの方ですか?」と尋ね返すと、そうだと言う。

小さな娘たちが可愛かったので、ツルでも折って渡そうと思い、 千代紙をバッグから取り出し、チャアと一緒に折った。 けれど、モタモタとそんなことをしながらふと気付いたら、 この母娘たちもいつの間にやらうさぎたちを追い越し、 ツルを渡せないほどはるか遠くへと進んで行ってしまっていた。

ようやく長い渡り廊下から、別の建物の中に入り、床に敷かれた毛氈の上を歩いた。 人で埋め尽くされた回廊から、左右に広いスペースの空いた場所に出たことで、 ようやく暑さは和らぎ、雰囲気もなんとなく王宮らしい荘厳さに変わってきた。 映画ならば家臣が頭を垂れているはずの毛氈の両脇には、 エンジ色した東芝の家庭用扇風機が何十台も型を揃えて折り目正しく並び、 風を送ることで、お客たちに歓迎の意を示していた。

回廊を進み始めてから小1時間経った頃、 ようやく王族方のおわす謁見の間の扉が見えてきた。 4〜5メートルはあろうかという重厚な扉。あの向こうに王妃さま方はおいでなのだ。

ここまでくると、列の進み方は今まで以上に遅くなり、 部屋まであとほんの10メートルだというのに、だいぶ待つことになった。 列の脇には黄色いプラスチックの箱が山と積まれ、 謁見を終えて部屋から出てきた人たちに一つ一つ手渡されていた。 どうやらお土産らしい。 おみやげ配布所の脇には、 古屋さんときりんがすでにきいろいお土産のつづらを手にして、うさぎたちを待っている。

男性陣をお待たせして申し訳ないと思いつつ、なかなか進まない列にイライラしていると、 突然、列の後ろの方から数人の女性たちが、 毛氈の上に作った列からバラバラと走り出た。

一体何事?!

と思いつつその行動を見守ると、彼女たちはおみやげコーナーへ直行。 どうやら王族謁見を諦め、ちゃっかりおみやげだけもらって帰ろうという魂胆らしい。 動かない列に痺れを切らしていた他の人たちも、 それにつられて次から次へと列から飛び出した。 まあ無理もない。王妃さまと握手したい一心で日本からはるばるやってきたうさぎですら、 暑さと疲れで気が変になってて、一瞬そうしようかと思ったもの。 毎年王妃さまと会うチャンスのある地元の人たちが「今年はいいや」と思うのも分かる。
とはいえ、何もそこで走っておみやげを取りにいく必要はどこにもないのだけれど。 でも、走りたい衝動にかられる気持ちは、何となく分かる。 うさぎも、のろのろの列に並ぶこと以外だったら、何でもやってみたいと思ったもの。

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