荷物を受け取って空港を出ると、その出口にはツアー係員が鈴なりかと思いきや、あんがい閑散としていた。
我らがルックワールドが大メジャーで、他には2、3人の係員がほんの数名の客を待ちうけるのみ。
本格的なスキーシーズン到来にはまだ間があるからだからだろうか。
他に30名くらいの団体さんがいたが、
それはいかにも「特訓しにカナダまでやってまいりましたー」っぽいどっかのスキークラブの合宿組で、
うさぎたちレジャー客とは趣を異にしていた。
ウィスラーでしっかり修行して、明日の日本のスキー界を担っていくのですよ。
ルックワールドの激安スキーツアーでレジャーしにきたのは、 OL3人組、新婚さんから中年夫婦、老夫婦まで4組の夫婦者、 それにうさぎたち4人の15人であった。ウィスラーでの泊数とバンフへ行く行かないは、みな人それぞれ。 全員集まると、小型バスは正午過ぎにウィスラーへと出発した。
空港を抜け、川を一本渡ると、そこはもう市街地であった。
うさぎたちのバスが走って行くのは、高さが20メートルほどもある立派なもみの木の並木道、
その両脇では小ぎれいな一戸建て住宅街が途切れてはまた始まり‥を繰り返していた。
土地は一軒あたり数百坪、家屋はほとんどが平屋建てで、必ず煙突がある。
〔さすがはカナダ、土地が広い!〕と感動していたが、あとでガイドブックを見たら、この界隈は高級住宅街らしい。
カナダでも、誰でもこんな家に住めるってわけじゃあないのね。
美しい並木道を走ってしばらくすると、また川があった。 川を渡ると景色は一変、高層ビルの立ち並ぶ市街地に入った。 川沿いに林立する高層ビルはなぜだかどんよりとした暗い雰囲気で、パッと見にはスラム化しているように思えた。 けれど近くに行ってみると、どれもスラム化どころか結構立派なマンションだったので、あれっと思った。
立ち並ぶ高層ビルは、鏡のように風景を映すガラスが細い窓枠に嵌まった、
壁の部分の殆どない新宿の住友ビルみたいな様式が多く、統一感があった。
こういう建築様式って30年前に流行ったんだよねー。
だが、どうも窓ガラスがベコベコのアクリル版みたいに薄いような気がする。
どうやらそれは窓に映った景色が歪んで見えるせいらしい。でもどうして歪んでいるのだろう?
本当に窓ガラスがペラペラなのか、それとも風景を歪めて映すのもデザインのうちなのか――?
青黒いガラスがピシッと嵌った住友ビルはカッコイイが、
グレーっぽい色のガラスに歪んだ景色の映るこの辺のビルは、どうもいまいち高級感に欠ける。しかも、
こんなデザインのビルが住宅としても使用されているらしく、オフィスビルならば均一に揃う窓回りが、
個人の住宅にあっては開いていたり閉じていたりカーテンが掛かっていたりとてんでにばらばらで、
いまいち雑然として垢抜けない一因となっている。
遠くから見てスラム化しているように見えたのは、そのせいかもしれない。
大して広くもないバンクーバーの街をバスが通り抜けるのに、小一時間かかった。 渋滞というのは狭い日本だけのお話かと思っていたが、この広いアメリカ大陸にもあるらしい。 第一、市街地を経由しないと空港から幹線道路に出られないという動線自体が、なんか間違ってる ――とうさぎは思う。 ウィスラーへと続く道のみならず、カナダの大動脈・大陸横断道路である国道1号線に出るにも、 この街中の同じルートを通らねばならないのだから、渋滞して当然である。 止まったり走ったりの繰り返しですっかり車に酔ってしまったので、美しい公園を抜け、 海を渡ってやっと街を出た時にはホッとした。
海沿いの道マリンドライブに出ると、そこからは快適なドライブとなった。何しろ景色が美しい。 左手に海、右手に山。 その美しさは、バンクーバーから離れるほどに増してきて、景色を正確に映し出す青い湖があるかと思えば、 切り立った崖から一直線に落ちる白糸の滝があり、何とも清々しい。
バンクーバーを抜けてから1時間ほどひた走り、景色の美しさが極まったところで、
バスはスコーミッシュの街に到着。ここが「街」と言えるかどうかは別として。
ガイドブックによれば、スコーミッシュは知るほとぞ知る観光名所で、鉄道も通っているらしいが、
うさぎのみるところ、辺りにはなーんにもない。
幹線道路沿いだというのに、ぽつんぽつんとスーパーなどがある程度である。
バスは二つのファーストフード店が一緒になった建物の前に止まり、ここで休憩をとることになった。
バスから外に出ると、寒い。
バンクーバー空港は東京と変わらない寒さだったのに、ここは明らかに雪国の寒さだ。
澄み切った空気があたりにピーンと張りつめ、街を取り囲む山々の頂にもうっすらと白い雪がかかっている。
お昼を食べる時間もあったのだが、何も食べる気がせず、トイレだけ済ませてまたバスへ。
今頃酔い止めが効きはじめたのか、ここでうさぎはすとーんと眠ってしまった。
バスがスコーミッシュを後にしたのにも気づかぬまま。
次の瞬間に「はい、デルタウィスラーに到着です」という運転手のアナウンスで目が覚めた。
実際には、その間、一時間が経過していたらしい。時計を見ると、ちょうど3時であった。