ウィスラー山のふもとの村、ここウィスラービレッジ(ウィスラー村)にはデルタ系列のホテルが二つある。 オン・ザ・ゲレンデにあってツインルームが主体の「ウィスラー・リゾート」と、 全室キッチン付きの「ウィスラービレッジ・スイーツ」と。 うさぎたちが今回宿泊するのは、ちょうど村の中心あたりに位置する「ビレッジ・スイーツ」の方である。
このホテルの写真を初めてツアーのパンフレットで見た時の感動は忘れられない。
グリーンの壁、赤い窓枠、黄色いフェンス、そして真っ白な雪に覆われた三角の屋根。
色彩豊かでかわいらしくて、まるでシルバニアハウスみたい。
ウィスラーのホテルといえば、きりんはさながら古城のようなシャトー・ウィスラーに憧れたけれど、
うさぎはこの田舎っぽい素朴なデルタ・スイーツに憧れた。
そして激安ツアーの宿泊先が、
去年のシャトー・ウィスラーから今年はデルタ・スイーツに変わったと知ったときには、
がっかりしたきりんを尻目に、狂気乱舞したものだ。
ところが。今ホテルの前に到着して、バスの窓越しに最初にうさぎが見たものは、素朴なシルバニアハウスではなく、 立派な石造りのエントランスであった。
「あれ? もしかして、もう一つのデルタ・ホテルと間違えているんじゃ‥?」内心そう思いながらもバスを降り、 指示されるままにロビーを抜けて会議室へ。 そしてここで滞在中の説明を受けた後、係員の後にくっついて、ウィスラー村めぐりに出発することになった。
石造りのエントランスを出、ホテルの外壁に沿って歩く。
だが、ここが正真正銘の「デルタ・ウィスラービレッジ・スイーツ」イコール「憧れのシルバニアハウス」
であるらしい、と納得がいくまでには少々時間が掛かった。
――なぜならば、それはものすごく豪壮なシルバニアハウスだったからである。
一階の天井高からしてゴージャスサイズなので、建物の近くから見たのでは、エントランスの豪華なしつらえや、 一階に並んだオシャレなテナントしか目に入らない。 建物から離れて上を見上げてみてやっと、木製のサイディングや三角屋根が目に入り、 ああ、素朴なんだと分かる(?)という按配なのであった。
また、その外周の長いこと! 凹凸の多い外壁がうねるように延々と続き、これが本当に一つの建物なのかと思うくらい。 それもそのはず、このホテルは200室以上のスイートルームを擁するのだそうだ。
「立派ではないけれど、かわいいから好き!」とここにくる前、
デルタ・スイーツの魅力をきりんに語っていたうさぎは、
図らずも「立派でしかもかわいいホテル」に泊ることとなった。
そして、
「同じお金を払うなら、かわいいなんてことより、豪華なホテルに泊りたいよなあ」と、
ブツクサ言っていたきりんも、「お城とは言わないけど、けっこうここも立派なホテルだねえ!」と、
すっかり気に入ったのであった。