Essay  うさぎの旅ヒント

【 ダメもと情報の落とし穴 】

ウェブ上で公開する旅行記を書いていると、ときどき、

これは書かない方がいいんじゃないか

と思う事がらに遭遇します。

それは、「自分がラッキーだったときのこと」。
例えば、「期待していたよりもいい部屋に泊れた」とか、 「何か特別な要望をホテルのスタッフに伝えたら、たまたま聞いてもらえた」とか。

自分がラッキーだったときのことは、誰しも人に吹聴してまわりたいものです。 うさぎだって、もちろんそう。旅行記に得々と書いてしまいたいのは、やまやまです。

でもちょっと待って!

理性が感情に呼びかけます。それを読む人が、この"情報"をどう受け取るか。 それを考えなくてはなるまいよ、と。

「ラッキーだった」ということは、 「こうすれば必ずそうなるということではない」ということです。 「ラッキーでない」方が当たり前で、「ラッキー」な方が稀なのです。

でも、どうでしょう。たとえば同じツアーに参加して、 となりのカウンターでチェックインの手続きをしている人が、 自分よりもいい部屋をもらっていたとしたら‥? だれしも、悔しいと思うのではないでしょうか。 どうしてそのラッキーが自分のところに来なかったのだろう? ――そう考えてしまうかもしれませんね。

そうして、ひとたびそんな気分になってしまったら、 本当なら満足のいくはずの部屋にも、難癖をつけたくなります。 いつの間にか、ラッキーだった人の方が基準となり、 それと比べて「自分はアンラッキーだった」という気分にすりかわってしまうのですね。

うさぎが怖れるのはそういうことです。
うさぎがラッキーだったことを書くことによって、 たまたまの「ラッキー」が、読む人にとって「基準」に読み違えられるのが怖いのです。 ‥といいつつも、けっこう自分のラッキーを書いちゃってますが。

ウェブ上で旅行情報を収集している人には、賢い人が多いものです。 自分にとって有益な情報を見逃したりは絶対にしません。 これを読んでいる皆さんも、 「フロントでこう言ったら、部屋をアップグレードしてもらえた」 なんていう情報をもし見つけたら、心の中でニヤリとしつつ 「シメタ。これは試してみよう」と思われるのではないでしょうか。

そして、実際、そうしてみてもいいのです。ダメモトでやってみる分には。

ただ、ここに先ほどの落とし穴があります。 二匹目のドジョウがいればいいのですが、あいにく留守の時もあります。

ドジョウが留守だった場合、

「あ、やっぱダメだったか〜、ざ〜んねん!」

と一瞬思って忘れてしまえる人はいい。でも、

「なんでなんで? どうして?? うさぎが良くて、どうしてあたしじゃダメなの?!」

などと思ってしまうタイプの人は、最初からやめた方がいい。 せっかくの旅行をつまらなくするだけです。

人間、ラッキーじゃなかったからといって、どうってことはありません。 うさぎだってラッキーじゃないことの方が圧倒的に多いのです。 ただ、わざわざ旅行記に「今回は特別ラッキーじゃありませんでした」 とまでは書かないだけで。

「ダメ元精神」というのは、あんがい年季が必要なワザです。 宝くじを10年も20年も買い続けて、 それでも3000円より上は当ったことがないというような人のみが、 やっと体得できるワザなのです。 うさぎはお蔭様でそのワザを体得していますが、 お若い方や、今までラッキー寄りの人生を歩んできた方にはちとムリかも‥。

でも、このエッセイを読んでくださったみなさまだけに、 ここでうさぎのとっておきの秘技を伝授いたしましょう。 名づけて「ほほえみ返しの術」。

ダメ元リクエストが不発に終わった場合、

「あら、それは残念。でもありがとう」と、余裕の笑みを浮かべる

コレがその奥義です。 余裕の笑顔を見せることによって、その場に漂う気まずさを解消し、 ついでに自分をも騙してしまおうという大技です。 「これしきのこと、大したことじゃないわ」って。

もっとも、この術を極めるのも一朝一夕にはムリですから、 よく鏡の前で練習してからお出かけになることをお勧めします。 くれぐれも、スタッフの前でむくれたりゴネたりして、 日本人ツーリストの評判をおとしめたりはなさいませぬよう。

それではグッドラック!  

2002年9月21日 うさぎ

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