南太平洋の小国フィジーにも、マクドはある。しかも2か所も。
一つは首都にしてこの国最大の商工都市スバにあるそうだが、もう一つはナンディにある。
最初にそのナンディのマクドを見たのは、ナンディ国際空港からナンディタウンに向かうバスの車窓からであった。 その界隈にあるのは地図で知っていたので、バスが空港を出てからというもの、 ずっと注意して辺りの景色を見回し、見逃すまいと気をつけていた。
だが、実際はそんな苦労は無用であった。
バスの右手にお馴染みのMマークが見えると、
日本人の女性ガイドさんがちゃあんとマクドの話題に触れてくれたからだ。
「右手に見えてまいりましたのは、フィジーのマクドナルドでございます。
何年か前までは、カレー味のハンバーガーを売っておりました。
宗教的な理由で牛を食べないインド人に配慮致しまして、ビーフの代わりにマッシュポテトをはさんでありました。
今ではそれはメニューにございませんけれど、チキンナゲットのソースに、カレー味を選べます」と。
この説明を聞いたとき、〔これで今回はわざわざマクドに出向く必要がなくなった〕と思い、半ばホッとした。 何しろ幹線道路沿いとはいうものの、マクドはナンディタウンから2〜3キロは離れており、 タクシーで乗り付ける以外に訪れる方法はない。 フィジーも他の発展途上国同様、大抵のタクシーにはメーターが付いておらず、 雲助のごときタクシードライバーと値段交渉をしなければならないかもと思うと、気が重かったのだ。
けれど、マナでのんびりして、あれこれぼんやり考えているうちに、 百聞は一見にしかず、やっぱりマクドを見てこねばなるまいよ、と思いはじめた。 マクドが面白いのはメニューだけではない。客層や店の雰囲気に思わぬ発見があったりもする。 カレー味のメニューにこだわるところを見ると、フィジーのマクドの客層は、 生粋のフィジアンよりもインド系の人々に偏っているのかもしれない。 フィジーの人口構成比はフィジアンが半数、インド人があとの半数だ。 インド系の人々の方が経済的に豊かであることからしても、インド人客が多い可能性は高い。 是非この目で、この仮説が正しいかどうかを確認してこなければ。
――そんなわけで、マナからナンディに戻ると、まずマクドに行くことにした。 タクシーの捕まえ方をラウンジで尋ねると、隣のジャックス民芸店の客引きが面倒を見てくれるだろう、 という答えが返ってきた。 それで、みやげ物屋の客引きに「タクシーを捕まえてほしい」と頼むと、このインド人の客引きは、 これまたインド人の運転するタクシーを捕まえ、なんと値段交渉までやってくれた。 しかもこの値段が安い。片道で3ドルだという。 マクドで10分ほど待っていてもらい、帰りも送ってもらって5ドル。約300円だ。
もしかしたら50ドルくらいにふっかけられるかもしれないが、20ドルあたりで手を打とう、 ラッキーなら15ドルくらいかな、と踏んでいたうさぎは拍子抜けしてしまい、ジャックス民芸店に大いに感謝した。 でもだからといってこの店で買い物をしたかというと‥。
うさぎたち4人が乗り込むと、おんぼろタクシーはクイーンズロードを一路マクドへ。 フロントガラスの中央にはヒビが入っているし、なんとなくあちこちのネジが緩んでいるんじゃないか、 という感じの振動。いつバラバラに分解しても不思議はない乗り心地である。
マクドの店の外観は平屋建てで、どこといって変わったところはなかった。
〔昼食時だし、さぞかしインド人がたくさん‥〕と期待に胸を膨らませて店内に入ると、なんのことはない、
広い店内にはたった2組の客しかいなかった。しかも一組はフィジアン。あれれ‥。
ちょっと珍しいのが、テーブルの一つ一つにハイビスカスの花があしらってあること。
レジの上にも、ランのブーケが素敵に置いてあった。
メニューもごく普通で、カバがあったりはしなかった。 うさぎたちはハンバーガーとフライドポテト、飲み物のセットと、ナゲットにカレー味のソースを付け、 アイスを二つ購入した。
品物が出てくるのを待っていると、中華系とおぼしき青年が、となりのレジから英語でひとなつこく話しかけてきた。 日本から来たの? フィジーはどう? ホテルはどこ? 目がぱっちりとしていて、とても笑顔の爽やかなお兄さんだ。 生粋のフィジアンでもインド系でもなく、中華系の店員さんがいる、というところがちょっと意外だが、 よく見ると、店内に張ってあるポスターにも漢字(略字体)が‥。 もしかしたら中華系のお客さんが多い?!――と、懲りずに当て推量を繰り返すうさぎであった。
待っていてくれたタクシーでナンディへ戻り、 パラダイスラウンジで早速ふくろを開いてみると、パリパリのポテトが日本と全く変わらぬ味で出てきた。 本当に、マクドのこの均一さには恐れ入る。さてここで一句。
いずこでも 地球の味は 変わらない
ナゲットのカレーソースに関して言えば、バーベキューソース同様、甘辛くとろみのついたフルーティな味で、 日本でも充分通用しそうなおいしさだった。 数年前まであったという「カレー味のハンバーガー」というのも食べてみたい気もするが、 手の届かぬブドウはすっぱい。 メニューから外されたということは、きっと人気を呼べるような味ではなかったのだ、と思うことにしよう。